もくじ
N部長
それまでN部長とは面識はなかったが、とても優しい人で
「やる気のないものが混ざっているとみんなに迷惑をかけると思うんです」
等と十八のガキの見え見えのウソに対しても
「気持ちはわかった」
「でも途中で逃げ出すのは同期のみんなに失礼だし君の気持もあるし」
「じゃあ、今日一日だけみんなと一緒にがんばろう」
「で、明日、引率は別の担当者に代わって自分も帰るから一緒に帰ろう」
と言ってくれた。
翌朝、N部長と自分で荷物を持ち、みんなに挨拶ともお詫びともつかないことを言い、施設を後にした。
「私は歴史が好きでね」
「奈良に日本最古の道という、山野辺の道というのがあるのはしってるかい?」
「みんなには内緒だけれども、帰る前に一緒に歩いてみないか?」
と誘ってくれ、一緒に歩かせてもらうことにした。
山野辺の道
山野辺の道は一言でいえば山の中の一本道でもちろん舗装などされていない。
近代的な建物などは視界に入らず、昔話の世界に迷い込んだようでとてものどかである。
N部長からは
「これから大変かもしれないけれど、一生懸命自分の道を探して歩いていくんだよ」
と言われたり、途中ですれ違う背中に大きな籠を背負ったお婆さんからコンビニ袋に入った数個のミカンを無言で渡されたり、
先ほどまで軍隊のような中にいた身としては涙が出そうな思いがする。
数時間して、山野辺の道を歩き切り、奈良は、天理駅に着いた。
「では私はこれから帰るけれども、君はどうする?」
“もちろん、一緒に帰る”
と言うのが普通である。
ところがである。
この私は、あろうことか
「せっかく奈良まで来たんで大阪見物でもして帰ります」
と抜かしたのである。
ややあきれ顔のN部長とは駅で別れ、スキップをするように一人大阪は難波駅へ。
(我ながら、このへん書いてて苦しいです)
大阪難波志賀勝
当時芸人志望であったため、笑いの本陣大阪でいろいろな劇場で本場の芸を見てまわろうという魂胆である。
初めての大阪はド迫力!
とにかく看板がでかい!
人込みがすごい!
とりあえずたこ焼きを買う。
家に帰ったらたこ焼きを親に渡して謝るつもりである。
で、歩く、歩く、歩く。
劇場は見つからない。
と、道に迷ったところで現れたのは志賀勝のような顔をしたポン引きで唐突に
「たこ焼き食うた?」
と話しかけてくる。
持ってる看板には
“のぞき”
“1000円ポッキリ!!”
と書いておる。
(覗くっきゃない!)
と、志賀勝に連れられて(いや、志賀勝ではないが)雑居ビルの電気が点いてないスナックみたいな店に入る。
汚ねえスナック内
中は、話に聞くのぞき部屋とは全く違う、ただの潰れたスナック。
そこには婆さんと呼べるほどの女がスリップ姿でいて、そいつにガブガブと当時飲めなかった水割りを飲まされて、
たまにAVに出たことがあると嘯く若い女が現れたり消えたりしいわゆる
“タケノコ剥ぎ”
と言われる手口で7000円ほど巻き上げられて、悪態をついて捨て台詞を吐いて出てきた。
もう大阪見物をする気にもならず、ベロベロの状態で特急アーバンライナーに乗りひと眠りして実家に到着。
実家
夜も更けていたので、こっそり自室へ入る。 お詫びのしるしのたこ焼きは、こぼれたウィスキーがかかっており、とても食べられる代物ではく、ごみ箱に捨てる。
(俺はいったいどうなるんだろう?)
と、この後、するはずのない私の部屋から物音がするので泥棒が侵入してきたと勘違いした両親と大喧嘩が始まるまでのあいだ考えていた。
つりばんど 岡村
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