【多重債務者と呼ばれて】 借金する前に読むべき物語! ②

ピザ屋でバイト

 

割と近所にピザ屋がオープンするという話が耳に入り、地元で経験もあったので
そこで働いて糊口をしのぐことにした。

仕事柄、町中の地理に詳しくなったが、以外にも小室哲哉の実家や、
新日本プロレスの子会社の事務所がある土地であることも分かり、
言うほどへき地でも無さそうだと、なんだか街に誇りのようなものを感じるようになった。

 

一度、新日本プロレスの事務所から注文があり、配達し、金を受け取っていると
奥から

 

「なんだ!ピザか!?」

 

と言いながら奥の席で事務机から顔をお上げになられたのは今は亡き山本小鉄さんだった。

 

『鬼軍曹だー』

 

と思い

 

「あ!はい!」

 

と答えると、注文した人に

 

「ひとりだけで食ってんじゃねえ!」

 

と叱り

 

「これで一番大きいサイズのやつ何枚か持ってきて!」

 

と一万円札を何枚か私に差し出してくれ

 

『やっぱり噂通りいい人なんだなあ』

 

となんだかほっこりした思い出がある。

 

 

※写真は山本小鉄さん

 

大屋さん おばちゃんとおじちゃん

 

二年が経ち、大家さんに家賃と共に更新料を払おうとすると

 

「不動産屋なんか介さないで私たちは私たちだけでやりましょう」

「だから更新料なんでいらないわよ」

 

と言ってくれ、とても良い大のおばちゃんなのであった。

 

一方、売上げが伸びず、三年ほどでピザ屋が閉店することとなった。

店のオーナーとは年が近く兄のような存在で、向こうも我々バイトの者たちの面倒をよく見てくれていた。

 

閉店することは何か月か前から予告されており、さっさと次を見つければよかったのだが

 

『すぐに次を探すのはオーナーに悪い』

 

と、甘いことを抜かし貯えもないくせにのほほんと構えておった。

 

閉店間際、銀行でカードローンのようなものを作り、手始めに限度額一杯の10万円を借りた。

これが借金人生のはじめの一歩である。
ここから雪だるま式に借金が膨れ上がっていくのだから、人生を甘く見てはいけない。

 

三か月ほどして次の職が見つかったが、それまでに金融会社の無人契約機でさらに15万借りており、
給料が入っても、借金返済にほとんどを取られ、手元には僅かな金しか残らず、
必然的に良い人に甘える結果となり、大屋さんに対して家賃を待ってもらうことになった。

 

家賃滞納が、2~3か月遅れになったが大家のおばちゃんは

 

「そんなこと気にしなくていーのよー」

「ある時に払ってくれればいーからねー」

 

と涙のでるようなことを言ってくれる。

 

 

一方おじちゃんは

 

しかしながら大屋のおじちゃんはそこまで甘くはなく、私が部屋に居ることがわかると
ドアを激しくノックして、怒りで震えながら(本当に震えている)

 

「おぉかぁぁむぅぅらぁぁぁくぅぅぅん!!!!!」

 

「いぃぃいぃぃかぁぁげぇぇんにぃぃしぃなぁいぃかぁぁぁ~」

 

と言いに来るのである。

 

「すいません、いついつまでにちょっとだけでも必ず支払いますので!」

 

と詫びを入れ、許してもらい、期日になるとおじちゃんがいなさそうなときを見計らって大屋さんの家へ行き

 

「この間、おじちゃんに今日支払うといったのですが」

 

「今日、財布ごと落としてしまって~」

 

などと見え見えのウソをつくが、おばちゃんはあくまで優しく

 

「あの人、そんなことしたの!」

「ある時に払ってくれればいーからねー」

 

と優しく言ってくれるのである。

【多重債務者と呼ばれて】 借金する前に読むべき物語!

お部屋探しは慎重に!

 

上京後のアパート探しの際、私と入れ違いで地元に戻ってきた昔のバンド仲間のギターのKに相談したところ、
Kの友人の住むアパートの隣の部屋が空いているという。

 

その部屋は、

 

「郊外ではあるが」

 

「京王線に乗れば新宿まで電車で一本。特急だったら20分。」

 

「その上、駅チカ。駅まで徒歩3分」

 

「ユニットバスだがバス・トイレ付、ロフト付き、6畳ワンルーム」

 

「家賃、共益費込みで45,000円」

 

「敷金礼金一か月づつ」

 

という。

 

東京の土地勘などは、全くないし、Kの友人が隣に住んでいるというところもなんだか安心できる。

 

それじゃあっていうんで、その部屋に住むことにした。

 

引っ越しを手伝ってくれた両親が一晩泊まっていったのだが、

 

「なんかここ本当に東京か?」

「うちの方が都会じゃないか?」

 

というくらい寂しい街並み。

大屋さんはアパートの隣に一軒家に住むおじちゃんとおばちゃんで、
毎月、直接支払うシステム。

 

 

東京で初めての友達

 

隣室のKの友人はギタリストで、ひょろひょろの男。

ポテトチップスを持ってきて

「洗濯機かして」

と言うので、貸してやり、洗濯機が動いている間中バカ話をするようになりすぐに仲良くなった。

 

で、住んでみて分かったのは、あくまで木造であり、壁もあくまで薄く
隣室の友人のクシャミや咳払いなどはもろに聞こえる。

 

テレビを観て笑うと、隣室からも笑い声が聞こえてきて

 

「あいつも同じ番組観てんだなー」

 

と言う、なんとなくプライバシーもへったくれも無い感覚となる部屋。

 

次に駅チカの件だが、たしかに駅まで徒歩3分だが、JRとか京王線とかいうメジャーな路線の駅ではなく

 

〝西武是政線〟

 

という、東京に住んでいるものでも知る者は滅多にお目にかかれない、JR中央線の武蔵境駅から多摩川競艇まで走る
レース開催日に競艇場へお客を運ぶためだけにあるような短い路線で、電車の本数は当時は(多分今も)極端に少ない駅。

 

 

周りには民家以外なんにもなく、しばらく歩くとコンビニがやっとあるような街。

まあ静かでよさそうなもんだが、競艇のレース日ともなるとアパートの横の道までが大渋滞。

自転車で通り過ぎることも困難な状況となる。

また競艇のお客もガラが悪く、道端で飛んでもない賭博行為なんぞをしておる。

 

「でも、家賃は安いんで」

 

と辛抱して生活していた。

 

友達、キャバクラで働く

 

隣室の友人は、しばらくするとキャバクラのボーイとして働き出した。

そういう店で働くことを心配すると

 

「うちの店は、ヤ〇ザとかと無関係だから大丈夫!」

 

と言っていたが、数日すると

 

「結局、ヤ〇ザでした!」

 

と言い、また数日すると店の女の子と同棲し始めた。

 

「そういう店の女の子に手を出したりして大丈夫か?」

 

と聞くと

 

「バレなきゃいいから!」

 

とカラッと笑っておったが、数か月するとその女の子は妊娠し

 

「結局、バレました!」

 

と言って、夜中にどこかから軽トラを借りてきて

 

「これから逃げます!」

 

と言って荷物の積み込みを手伝ってやり

 

「それじゃ!短い間だったけど!」

 

と二人でどっかへ夜逃げしてしまった。

 

東京で初めてできた友達だったので寂しかった。

 

次に隣の部屋に沖縄出身というお婆さんが引っ越してきて
物干しざおで干し柿を作ったりしていたので

 

「俺の思い描いた東京と随分違うなあ」

 

と思うのだった。

洗濯の注意点! あなたがこんな目に遭わないように・・・

注意事項

 

もう秋になるが、まだまだ暑いこの時期である。

私の経験からみなさまにぜひとも注意していただきたいことを報告いたします。

かなりショッキングな場面もありますので、くれぐれもお食事中や、これから食事をされる方はまた、時間を改めてお越しください。

 

本題

 

今から二十年ほど前、当時、私は洗濯物をアパートの窓を開けたすぐにある、窓と併設されている、
いわゆる安アパートによくある物干し竿で干していました。

 

ちなみにこの物干し竿は、上京して数日後に、今でもみかける軽トラックで
録音したテープを流し

 

「たーけやーさおだけー」

「物干し竿が二本で1,000円!」

 

と売りに来るスタイルのもので

 

「なんとしても、物干し竿を買わねばならん」

 

と慌てて飛び出していき、軽トラを呼び止め、2本で1,000円の竿だけが欲しい旨を伝えると

 

「2本で1,000円のは強度が弱い」

「で、錆びやすい」

 

「今ならン万円のステンレス製のが安くお売りできる」

 

などと乗せられ、二十歳の私は二本で18,000円と言われたのを

 

「じゃあ、それを一本下さい」

 

と上京早々詐欺まがいの手口で9,000円の竿だけを買うはめになったのである。

 

今、思い出して腹が立ってきた。

 

怠惰な洗濯生活

 

それから何年も、雨さえ降らなけば、件の物干し竿に洗濯物を干し
きちんと取り込んで畳んだり、しまったりせず、
物干し竿にかけてあるハンガーから直接、洗濯物を取っては、そのまま直接着て、また洗濯物が溜まったら
洗って物干し竿に干うという怠惰な洗濯生活を送っていた。

 

 

秋が近づいてきたちょうど今頃の時期に、裸で、いつものように白いTシャツを物干しのハンガーから直接とってそのまま着たのだが、
そうにもこうにも首の後ろの部分にあるTシャツのタグが折れ曲がっているのか違和感を覚える。

 

そんな時、みなさんもそうすると思うが、シャルを着たまま、腕を伸ばして頚部に手をやりTシャツのタグを直そうと、
タグを掴むと

 

ガサガサガサガサッ!!!

 

と、Tシャツのタグと思ったものが、私の手のひらの中で激しくうごめく。

タグが動く訳ないのである。

 

「うわああああああ!!」

 

と、声をだし、それを掴んだまま思い切り床に叩きつけると
なんと、それはコンビニのおにぎりくらいの大きさの、灰色で、見たことのない模様の蛾だった。

 

うぉぉぉぉぉおぉぉぉおおお!!!

 

私は虫を殺すことが苦手である。

ので、それから数時間、部屋でそいつを殺さずに部屋の外に追い出す作業に追われた。

 

その後、TV番組でカブトムシとり名人などが白い布を使った罠などを用いているのをみて大いに納得したものである。

 

それからというもの、私は、洗濯物を干しっぱなしにせず、きちんと取り込んで畳んでから着る習慣を身に着けたのである。

皆様も同じ目に遭わぬ様、また白いものには特に注意くださいますよう願っております。

【上京する若者へ】 詐欺被害に遭わないために! ③

ポン引き大捜査線

 

さっきポン引きが声をかけてきたコマ劇前に行くが、ヤツはいない。

が、他のポン引きがいたので

 

「あなたの仲間でさっき僕に声をかけてきたのがいるんですが、今どこにいるかわかりますか?」

 

と、声をかけるが

 

「知らない」

 

の一点張り。

 

 

頭に来てるので

 

「知らないっていうかさ、多分、ここらであんた達も同じサギ商売やっているんだから知ってるでしょ?」

 

と問い詰めるも

 

『なんのことやら』

 

の表情。

 

「あっそ、自分で探すから、まあいいや」

 

と言って、あっちのポン引き、こっちのポン引きに次々に同じように声をかけて回る。

 

そうこうししていると、にわかにコマ劇前がざわつき出した。

 

騒ぎの乗じて、さっきのカラコンダルマがいる!

で、夏なのに黒のスーツを着込んだ、ミナミの帝王じみたイカつい男に耳打ちしている。

 

『あのやろう、やっぱりグルじゃねえか』

 

と思い、カラコンダルマに近づいていくと、件のミナミの帝王が

 

「おい、兄ちゃん」

 

と来た。

 

 

ラスボス登場!

 

『こいつが元締めだな』

 

『こいつに金は返してもらう』

 

と決めた。

 

「おい、兄ちゃん。何やってんだ?」

 

「ここらにいた男に、自分の風俗店の女の子を斡旋すると言われてホテルに行って、ホテル代を払って、男に代金を払って男は去っていきました。
 やってきた女も、また代金を払えというので、騙されたと気が付きました。
 金を返してもらうために、さっきの男を探してるところです。」

 

「あのなあ、兄ちゃん。例えばタクシーに乗って、目的地に着いたが、それが目的地と違ってたからって金を払わなくていい訳がないだろう?」

 

「タクシーに例えるんなら、僕は目的地に着いていません。乗ってすぐ降りた形です。タクシーであれば初乗り運賃くらいで済むはずですが。
 ホテル代を返せとは言いません。支払った20,000円を返してもらいます」

 

「そんなもんは、勉強代だと思って諦めな」

 

「20,000円は、僕にとって大切なお金です。勉強代には高すぎます。生活もままなりません。死活問題です。」

 

「生活に困るような金で遊ぼうとするなー!!!!!!!!!」

 

 

 

『まったく仰る通り!!』

 

と拍手したくなったが、ここで引き下がるわけにはいかない。

 

食い下がる若者

 

「じゃあ、さっきの男と直接話しますんで、紹介してください」

 

「おいおい、なんでそこまで必死になるんだよ?!」

 

「ですから、僕にとっては死活問題ですから」

 

などと言っていると異変に気が付いたポン引きどもが私と、元締めを取り囲む形になっている。

それに気づいてあたふたしていると

 

「な?ケガしないうちに帰れよ!」

 

と言われて、

 

スタコラサッサ

 

という風に歌舞伎町を後にした。

 

今、思い返してみると、登場人物全員悪人で

 

『誰にも感情移入できない話だな』

 

と思った。

【上京する若者へ】 詐欺被害に遭わないために! ②

アホがホテルで

 

『AV女優、早く来ないかなあー』

 

とワクワクしているアホが汚いラブホの一室で一人。

ベッドに腰掛け、タバコなんぞを吸う。

 

『改めて、あっち系のビデオの女優、早く来ないかなあー』

 

と三本目のタバコを吸い終わったくらいで、さすがのアホも

 

『なんかが変だな』

 

と思い出す。

 

『これはもしかして』

 

『ひょっとすると』

 

と思うが

 

『いやいやそんなことない!日本にそんな悪い人いない』

 

『もし、そうだとしたら、俺の二万はどうなる!?』

 

『俺の生活はどうなる!?』

 

 

「ていうか、騙されたー!!!!」

 

 

と、ようやく思い当たり

 

「とっ捕まえてやる!」

 

思ったところへ、部屋の呼び鈴が鳴った。

 

 

現れたのは・・・

 

『やっぱり、日本にそんな悪い人はいない!』

 

『ポン引きさん、疑ってごめんなさい』

 

「はーい、今、開けまーす」

 

初めてのいよいよあっち系のビデオ女優とのご対面に緊張する。

 

向こうは知らないが、こっちは見知っているという状況。

 

『何と言って話し出そう?』

 

『もう大ファンだってことにしよう』

 

と決めてドアを開けると、あっち系の女優とは似ても似つかぬカラーコンタクトをしたダルマのような女が

 

「暑いねー」

 

などと言いながら部屋に入ってくる。

 

「あ、そうっすね」

 

と、意気消沈して答える。

 

『・・・あっち系のビデオ女優じゃない』

 

しかし、よく考えてみれば一旦、二万をだまし取られたと思ったが、
たとえカラコンのダルマであっても、こうやって女性がやってきたのだ。

 

 

気を取り直しまして

 

もういい、女優でなくてもいい、ダルマであってもいい。
わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい

この際なんでもいい、と、気を取り直そうとすると

 

「じゃあ、先にお金ね」

 

と言う。

 

「え?」

 

「60分コースなんで25,000円」

 

「いや、そういうことじゃなくて・・・」

 

「・・・なによあんた」

 

「いや、金ならさっきの男の人に払ったけど」

 

「なに、男の人って?」

 

「さっき事務所だかに電話した人だよ」

 

「そんなやつと私は、なんにも関係ないよ。私は金もらってないんだから払いなよ」

 

というか、そもそも財布の中には、既に帰りの電車賃である数百円しか残っておらず、払えるはずがない。

 

普段は気が弱いが、意外と居直ると強気になるのが私である。
騙された怒りと、これからの生活の不安でヤケクソになり、
窮鼠猫を噛む状態になり、恐いものに対する危機感も薄れている。

 

「というか、もう金がねえから払えるわけがねえだろ」

 

「こっちはお前らに騙されたんだ。お前が、俺に金を返せ!」

 

「それが出来ないんなら、さっきの男を呼んでこい!」

 

と問い詰めるが

 

「・・・ホントに私は、そんな男知らないんだって!」

 

という。

 

「それならさっきのヤツを探し出してやる」

 

「その上でグルかどうかは判断する」

 

と吐き捨てて、カラコンダルマを部屋に残してホテルを飛び出していった。

 

(つづく)

【上京する若者へ】 詐欺被害に遭わないために!

夏の日の1994

 

上京したての二十歳の夏。

バイトが休みだったが、やることもないので、昼過ぎから電車に乗って新宿へ行く。
歌舞伎町に入って行き、もうすぐで当時あったコマ劇にたどり着く当たりで、
歯抜けのチンピラのような男が近寄ってきた。

 

「風俗に興味はないか?」

 

「うちにはあっち系のビデオに出ている女優が多数在籍している」

 

などと声を掛けて来た。

ポン引きである。

血気盛んな頃であり

 

〝血気盛ん〟

 

とは、言い換えれば

 

〝分別のつかないバカ〟

 

とも言えるので足を止めて話を聞く。

 

ポン引きは小型のアルバムを出して、有名AV女優らの写真を見せつけてくる。

 

「ほら、ここに写ってる子たちなら、数分で準備できるよ」

 

などと言う。

値段は、ホテル代は別として20,000円ポッキリであるという。

 

20,000円と言えば大金である。

生活も苦しく、食えない日には、鰹節を一握り食って1日の食事としていたような有様で
風俗なんぞに大金を使っている場合ではない。

 

場合ではないのに

 

「じゃあ、この写真の人を頼む」

 

と言ってしまった。

 

 

 

若い男ってヤツは

 

給料日直後で銀行から引き出したばかりの金が、たまたま財布にあったのも悪かった。

 

「あっちのビデオの女優が出てくるなんてすごい!」

 

「さすが東京だ!」

 

「新宿は歌舞伎町だ!」

 

と、財布から金を出そうとするとポン引きは

 

「金は後でよい」

 

「ホテルでいただく」

 

という。

そりゃ、街で現金受け取るわけにもいかんのだろうが、当時はそんなこともわからない。

ポン引きについて歩いていくと、歌舞伎町の奥の方のホテル街に行く。

そんなところがあるとは知らなかったので、なんだか怖い思い。

一件のボロッちいホテルに着く。

入り口の所にカウンターがあって、そこに老婆がおり、昼間の休憩分のホテル代2,500円を支払うように言われ、支払う。

 

男二人で部屋に入る。

男は当時流行り出した携帯電話で事務所らしきところに電話をし、女性をこのホテルの、この部屋へ派遣するよう頼んでいる。

 

 

電話を終えると

 

「じゃあ、数分で女の子が来るから」

 

と言って金を請求する。

 

『何事も段取り通りいっているなあ』

 

と鼻水も垂らさんばかりにアホ面丸出しで思いながら20,000円をポン引きに渡す。

ポン引きは嬉しそうに

 

「では、楽しんで!」

 

と言って出て行った。

 

(つづく)

【バンドあるある】 仁義なきバンド内抗争 4/4

その名はゴッチー

 

Hに聞くと、さきほどの態度もデカく詰め寄ってきたのは体がゴツイから

〝ゴッチー〟

と呼ばれているいう

 

『商業高校男子って、本当バカ!』

 

と思わざるを得ない、身も蓋もないニックネームを獲得している番長のような男らしい。

 

ゴッチーに目を付けられた以上、ライブ終わりでNにウチワを渡す作戦は、恐らく失敗するだろう。

 

あきらめてなるものか

 

「否が応でもNにウチワを持たすためにはどうするか?」

 

と考え

 

「Nの自転車のサドルの代わりにこのウチワを突っ込んでやろう!」

 

という結論に達する。

 

 

こっそりNの自転車に近づいていき、サドルをスポンと抜く。

そこへウチワの柄をサドルの穴に突っ込もうとするが、柄の方がかなり太くて入らない。

 

「なんか柄を削るもんないか?」

 

と探しているとHが

 

「アスファルトはある意味、もっとも粗いヤスリではないか?」

 

と言ったので

 

「そりゃそうだ!」

 

と、三人交代でウチワの柄を道路でゴリゴリ削り出した。

 

 

会場から、へたくそなBOOWYのコピーが漏れ聞こえてくる。

 

【ONLY YOU!そのままで~♪】

 

『そのままそのままウチワを入れる』

ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ

 

 

【ONLY YOU!たった一度~♪】

 

『一度と言わずに二度三度』

ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ

 

等とやっておったら、ウチワの柄は削った鉛筆のようにトッキトキになった。

 

サドルをドブに捨て、うちわをサドルの穴に刺し、その自転車を三人で持ち上げて、会場の入り口正面に設置して逃げるように帰ってきた。

 

「俺たちを敵に回すと、どうなるか思い知れ!」

 

などと叫び、ライブ終わりでNがどんな気持ちになり、周りからどう思われたのか、想像するだけで笑いが止まらなかった。

 

その後はどうなったの?

 

その後、喧嘩になることなく、お互いに笑い話として理解し、何事もなく四人のバンド関係も、友達関係はそれまでと変わらず続いた。

変わったことがあるとすれば、Nが我々の言うことに対して素直に言うことを聞くようになった気がしないでもない点である。

 

いいおっさんになった今でも、Nの実家には件のウチワがある。

たまに遊びに行くと、その柄の部分がトンガったウチワを目にして

 

『クックックックッ』

 

と笑いが込み上げてくる。

 

ちなみに

 

後日、ドラムのHの引率で、ギターのKが炊飯ジャー持参で商業に乗り込みゴッチーの上靴に日の丸弁当を作成。

その日を境に校内でのゴッチーの地位は、著しく没落したのである。

【バンドあるある】 仁義なきバンド内抗争 3/4

敵は公民館にあり!

 

自転車に乗って数分で公民館近辺についた。

たかだか高校生のコピーバンドだが、結構人だかりができている。

まずは、ライブが始まって、これらのギャラリーが会場内へ入るのを、件の〝祭〟と書かれたでっかいウチワを持って、物陰に隠れてこっそり待つ。

 

 

ギャラリーを見れば、麗しき商業高校女子も満載だ。

こんな方々と、いつも授業を受けているNが羨ましい。

 

一方、男子生徒の方は、Nと似たり寄ったりの、せいぜいがプリントシャツか、柴田恭兵を意識したジャケットじみたものを着こんで、これ見よがしにタバコをくわえたりしているバカ者しかおらぬ。

 

『普段から虐げられている工業高校生代表として』

 

『こいつらに一杯食わしてやらなければならん』

 

の思いを強くする。

 

しばらくしてギャラリーが会場内へ入って行ったので、我々も建物に近づいていく。

 

Nに、どう恥をかかせるか?

 

ライブが終わって、女子高生の前で恰好をつけるであろうNにつかつかと歩み寄り

 

「あ、これ忘れ物だよ」

 

とNに〝祭〟のウチワを持たせて逃走しようということにした。

 

嗚呼ビーバップ野郎

 

「はやくこんなクソライブ終わりやがれ!」

 

などと言っていたら、体がデカくて頭も態度も悪そうなのを筆頭に数人の男が近づいてきた。

Nと同じ商業に通うドラムのHの同級生らしい。

 

 

 

「おい、H」

「こいつら何なんだ?」

 

などと言う。

 

ライブやっているのが、ストーンズなら、こいつらはヘルズエンジェルスの役割をしているのかもしれない。

 

『悲しきビーバップ直撃野郎め』

 

と思っていると

 

クレージー且つ、負けん気も人一倍強いギターのKが

 

「なんだてめえ!」

 

と、食ってかかろうとする。

 

温厚なHが慌てて

 

「友達友達、Nの友達!」

 

とKを制して

 

「なんだ、友達か」

「だったら早く言えよ」

 

等と言って、会場に入っていった。

 

 

ギターのKの全身に青白い炎がメラメラしているのがわかる。

こいつを怒らせるなんて

 

『こりゃあ、しらねえぞ(笑)』

 

と思うのだった。

 

(つづく)

【バンドあるある】 仁義なきバンド内抗争 2/4 

Nへのジェラシー

 

残された我々は、どうにもこうにも腹が立つ思い。

別に貯まり場を確保したかったんじゃない。

女子高生と交流を持ちたかったのである。

 

だいたいNは、身長はあくまで小さく、武田鉄矢のような顔をしておる。

だいたいが女などにもモテる要素が一切ないというのに商業高校へ進んだというだけでバレンタインにチョコレートなんぞを貰い
ホワイトデーのお返しに何か気の利いたものでも買おうと、今は無き

 

〝ファンシーショップ〟

 

なんぞに入っていったところを、運悪く私が発見。

私もNに続いて、こっそりファンシーショップへ入っていくと、

Nがクッキーの入った小瓶なぞを口半開きで品定めしているところを目撃し、
気持ちが悪くなって、Nに声をかけぬまま出てきた。

その一件以来、私はNに腹に対して据えかねるところがあったのである。

 

 

   ※写真はファンシーショップ

 

残された者たち

 

しかし、Nはもう家から出て行ってしまったのである。

まさかこのままN宅で遊んでもおれず、勝手に出て行ったNをなんとか辱めてやろうと思案を巡らす。

 

ギターのKは、絵にかいたようなギタリストで高校生ながらバカテク、且つ、細身で長身で二枚目というNとは対照的な男。

且つ、バンド内でも一番クレージーな男である。

 

Kは普通科に通っているが、クラスの暴力的なヤツに腹を立て

 

「湯気が立っていなければ意味がない」

 

と、意味不明なことを口にしながら学校に炊飯ジャーを持参。

 

見つからないように、そいつの上靴に炊き立てのご飯を敷き詰め、真ん中に梅干しを置いて日の丸弁当を作った伝説を持つ男。

そのKが持前のクレージーさを炸裂させて

 

「こうしてやる!」

 

と言って、Nの部屋の中にある物を部屋の真ん中に寄せ集め、マンガ本やらなんやらを塔の様に積み上げていく。

 

我々もそれを手伝い

 

「帰ってきたら、部屋にトーテムポールがあるという寸法だ」

「ざまあみやがれ!」

 

と言いながら天井まで届きそうな、タワーが出来上がり、頂上にはプラスチック製のハロウィンのカボチャを置く。

 

「これだけではインパクトに欠ける」

 

として、卒業アルバムをコンビニに持ち込み、Nの顔を大量に拡大コピー。

それに画びょうを指しまくったものを、部屋のあちこちに貼り付けたのである。

 

 

  ※写真はトーテムポール

 

エスカレートする若者たち

 

「これだけやっておけば、今後は、我々コルレオーネファミリーに逆らえまい」

 

とNの家から出ていこうとするが、我々の悪ノリもエスカレートしてきており

 

「これだけでは、まだまだ腹の虫が収まらん」

 

 

「ライブ会場で、女子高生の前で、恥をかかせなければ意味がない!」

 

と、昔からNの部屋にあり、タワーに刺してあった

 

〝祭〟

 

と書かれた、赤いでっかいウチワを抜いて、それを持ってライブが行われている公民館に向かったのであった。

 

 

(つづく)

【バンドあるある】 仁義なきバンド内抗争 1/4

 

この物語の登場人物

 

・私(工業高校二年生/ボーカル担当)

・K(普通科高校二年生/ギター担当)

・N(商業高校二年生/ベース担当)

・H(商業高校二年生/ドラム担当)

ほか。

 

バンドの貯まり場はNの家

 

春の、土曜の昼過ぎ。

高校時代、当時組んでいたバンドのメンバーの貯まり場のようになっていたベース担当の友人Nの家にいくと、いつも通りギターのKと、ドラムのHも来ている。

が、なんだか空気がおかしい。

 

「お前、裏切る気か!」

 

「俺たちより、そっちをとるのか!」

 

「それでパンクと言えるのか!」

 

などとNが責められている。

 

往年の学生運動のような気配である。

Nも憮然とした態度で

 

「そっちの約束の方が先だ」

「というか、お前ら勝手に来といて裏切るも何もない!」

 

と言っている。

 

話を聞いてみると、その日、Nの通う(私の憎む)商業高校の男子生徒がコピーバンド

(どうせBOOWYあたりの)

を組み近所の神社にある公民館でライブをするという。

 

そこにNは客として参加する。

そのため、集まってきた者に家から出ていけといったのが発端。

 

出ていけと言われたメンバー二人が

 

「お前の都合で貯まり場を明け渡すわけにはいかない」

 

「お前の家であって、俺たちの家でもある」

 

と言って喧嘩になったらしい。

 

 

女子高生との集いのチャンス!?

 

Nがあくまで正しく、その他の友人が無茶苦茶な言い分だと思ったが、そのライブには商業女子がわんさか来るという。

そこで私はNに

 

「みんなでそのライブに行くわけにはいかんか?」

 

と素直に提案してみたのであるが

 

「仲間内でやるライブなんで」

「他校生はちょっと」

 

などとニベもない。

 

これには私も

 

「工業高校を差別すんのか!」

 

「工業高校生にも人権はあるぞ!」

 

と怒り心頭。

 

『Nだけ良い目にあわせてなるものか!』

 

と、カンダタ根性丸出しになり、他の仲間と一緒になって

 

「行くんなら俺たちを踏み越えて行け!」

 

「家を出て、一歩での二歩でも歩けるもんなら歩いてみろ!」

 

と必死にNのライブ行きを阻止を試みる。

 

キレたN

 

Nは我々を一切無視。

平然と、この日のライブ用に、若者向けの紳士服屋で買っておいたらしい彼なりの勝負服と思しき

英字のプリントシャツと、ブラックジーンズに着替えている。

 

 

星条旗のキャップをかぶり、仕上げにジョンレノンのような丸いサングラスをかけ

 

「じゃあ勝手にすれば!」

 

と吐き捨てて出ていこうとする。

 

 

「それがてめえの考えるロックファッションか!」

 

「ロックに謝れ!」

 

などと背中に向かって叫んでいたが、聞こえぬふりをしてNは家から出て行ったのであった。

 

(つづく)