【上京する若者へ】 詐欺被害に遭わないために! 【一挙読み】

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夏の日の1994

 

上京したての二十歳の夏。

バイトが休みだったが、やることもないので、昼過ぎから電車に乗って新宿へ行く。
歌舞伎町に入って行き、もうすぐで当時あったコマ劇にたどり着く当たりで、
歯抜けのチンピラのような男が近寄ってきた。

 

「風俗に興味はないか?」

 

「うちにはあっち系のビデオに出ている女優が多数在籍している」

 

などと声を掛けて来た。

ポン引きである。

血気盛んな頃であり

 

〝血気盛ん〟

 

とは、言い換えれば

 

〝分別のつかないバカ〟

 

とも言えるので足を止めて話を聞く。

 

ポン引きは小型のアルバムを出して、有名AV女優らの写真を見せつけてくる。

 

「ほら、ここに写ってる子たちなら、数分で準備できるよ」

 

などと言う。

値段は、ホテル代は別として20,000円ポッキリであるという。

 

20,000円と言えば大金である。

生活も苦しく、食えない日には、鰹節を一握り食って1日の食事としていたような有様で
風俗なんぞに大金を使っている場合ではない。

 

場合ではないのに

 

「じゃあ、この写真の人を頼む」

 

と言ってしまった。

 

 

 

若い男ってヤツは

 

給料日直後で銀行から引き出したばかりの金が、たまたま財布にあったのも悪かった。

 

「あっちのビデオの女優が出てくるなんてすごい!」

 

「さすが東京だ!」

 

「新宿は歌舞伎町だ!」

 

と、財布から金を出そうとするとポン引きは

 

「金は後でよい」

 

「ホテルでいただく」

 

という。

そりゃ、街で現金受け取るわけにもいかんのだろうが、当時はそんなこともわからない。

ポン引きについて歩いていくと、歌舞伎町の奥の方のホテル街に行く。

そんなところがあるとは知らなかったので、なんだか怖い思い。

一件のボロッちいホテルに着く。

入り口の所にカウンターがあって、そこに老婆がおり、昼間の休憩分のホテル代2,500円を支払うように言われ、支払う。

 

男二人で部屋に入る。

男は当時流行り出した携帯電話で事務所らしきところに電話をし、女性をこのホテルの、この部屋へ派遣するよう頼んでいる。

 

 

電話を終えると

 

「じゃあ、数分で女の子が来るから」

 

と言って金を請求する。

 

『何事も段取り通りいっているなあ』

 

と鼻水も垂らさんばかりにアホ面丸出しで思いながら20,000円をポン引きに渡す。

ポン引きは嬉しそうに

 

「では、楽しんで!」

 

と言って出て行った。

アホがホテルで

 

『AV女優、早く来ないかなあー』

 

とワクワクしているアホが汚いラブホの一室で一人。

ベッドに腰掛け、タバコなんぞを吸う。

 

『改めて、あっち系のビデオの女優、早く来ないかなあー』

 

と三本目のタバコを吸い終わったくらいで、さすがのアホも

 

『なんかが変だな』

 

と思い出す。

 

『これはもしかして』

 

『ひょっとすると』

 

と思うが

 

『いやいやそんなことない!日本にそんな悪い人いない』

 

『もし、そうだとしたら、俺の二万はどうなる!?』

 

『俺の生活はどうなる!?』

 

 

「ていうか、騙されたー!!!!」

 

 

と、ようやく思い当たり

 

「とっ捕まえてやる!」

 

思ったところへ、部屋の呼び鈴が鳴った。

 

 

現れたのは・・・

 

『やっぱり、日本にそんな悪い人はいない!』

 

『ポン引きさん、疑ってごめんなさい』

 

「はーい、今、開けまーす」

 

初めてのいよいよあっち系のビデオ女優とのご対面に緊張する。

 

向こうは知らないが、こっちは見知っているという状況。

 

『何と言って話し出そう?』

 

『もう大ファンだってことにしよう』

 

と決めてドアを開けると、あっち系の女優とは似ても似つかぬカラーコンタクトをしたダルマのような女が

 

「暑いねー」

 

などと言いながら部屋に入ってくる。

 

「あ、そうっすね」

 

と、意気消沈して答える。

 

『・・・あっち系のビデオ女優じゃない』

 

しかし、よく考えてみれば一旦、二万をだまし取られたと思ったが、
たとえカラコンのダルマであっても、こうやって女性がやってきたのだ。

 

 

気を取り直しまして

 

もういい、女優でなくてもいい、ダルマであってもいい。
わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい

この際なんでもいい、と、気を取り直そうとすると

 

「じゃあ、先にお金ね」

 

と言う。

 

「え?」

 

「60分コースなんで25,000円」

 

「いや、そういうことじゃなくて・・・」

 

「・・・なによあんた」

 

「いや、金ならさっきの男の人に払ったけど」

 

「なに、男の人って?」

 

「さっき事務所だかに電話した人だよ」

 

「そんなやつと私は、なんにも関係ないよ。私は金もらってないんだから払いなよ」

 

というか、そもそも財布の中には、既に帰りの電車賃である数百円しか残っておらず、払えるはずがない。

 

普段は気が弱いが、意外と居直ると強気になるのが私である。
騙された怒りと、これからの生活の不安でヤケクソになり、
窮鼠猫を噛む状態になり、恐いものに対する危機感も薄れている。

 

「というか、もう金がねえから払えるわけがねえだろ」

 

「こっちはお前らに騙されたんだ。お前が、俺に金を返せ!」

 

「それが出来ないんなら、さっきの男を呼んでこい!」

 

と問い詰めるが

 

「・・・ホントに私は、そんな男知らないんだって!」

 

という。

 

「それならさっきのヤツを探し出してやる」

 

「その上でグルかどうかは判断する」

 

と吐き捨てて、カラコンダルマを部屋に残してホテルを飛び出していった。

ポン引き大捜査線

 

さっきポン引きが声をかけてきたコマ劇前に行くが、ヤツはいない。

が、他のポン引きがいたので

 

「あなたの仲間でさっき僕に声をかけてきたのがいるんですが、今どこにいるかわかりますか?」

 

と、声をかけるが

 

「知らない」

 

の一点張り。

 

 

頭に来てるので

 

「知らないっていうかさ、多分、ここらであんた達も同じサギ商売やっているんだから知ってるでしょ?」

 

と問い詰めるも

 

『なんのことやら』

 

の表情。

 

「あっそ、自分で探すから、まあいいや」

 

と言って、あっちのポン引き、こっちのポン引きに次々に同じように声をかけて回る。

 

そうこうししていると、にわかにコマ劇前がざわつき出した。

 

騒ぎの乗じて、さっきのカラコンダルマがいる!

で、夏なのに黒のスーツを着込んだ、ミナミの帝王じみたイカつい男に耳打ちしている。

 

『あのやろう、やっぱりグルじゃねえか』

 

と思い、カラコンダルマに近づいていくと、件のミナミの帝王が

 

「おい、兄ちゃん」

 

と来た。

 

 

ラスボス登場!

 

『こいつが元締めだな』

 

『こいつに金は返してもらう』

 

と決めた。

 

「おい、兄ちゃん。何やってんだ?」

 

「ここらにいた男に、自分の風俗店の女の子を斡旋すると言われてホテルに行って、ホテル代を払って、男に代金を払って男は去っていきました。
 やってきた女も、また代金を払えというので、騙されたと気が付きました。
 金を返してもらうために、さっきの男を探してるところです。」

 

「あのなあ、兄ちゃん。例えばタクシーに乗って、目的地に着いたが、それが目的地と違ってたからって金を払わなくていい訳がないだろう?」

 

「タクシーに例えるんなら、僕は目的地に着いていません。乗ってすぐ降りた形です。タクシーであれば初乗り運賃くらいで済むはずですが。
 ホテル代を返せとは言いません。支払った20,000円を返してもらいます」

 

「そんなもんは、勉強代だと思って諦めな」

 

「20,000円は、僕にとって大切なお金です。勉強代には高すぎます。生活もままなりません。死活問題です。」

 

「生活に困るような金で遊ぼうとするなー!!!!!!!!!」

 

 

 

『まったく仰る通り!!』

 

と拍手したくなったが、ここで引き下がるわけにはいかない。

 

食い下がる若者

 

「じゃあ、さっきの男と直接話しますんで、紹介してください」

 

「おいおい、なんでそこまで必死になるんだよ?!」

 

「ですから、僕にとっては死活問題ですから」

 

などと言っていると異変に気が付いたポン引きどもが私と、元締めを取り囲む形になっている。

それに気づいてあたふたしていると

 

「な?ケガしないうちに帰れよ!」

 

と言われて、

 

スタコラサッサ

 

という風に歌舞伎町を後にした。

 

今、思い返してみると、登場人物全員悪人で

 

『誰にも感情移入できない話だな』

 

と思った。

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つりばんど 岡村

「健やかなるときも、病めるときもアホなことだけを書くことを誓いますか?」 はい、誓います。 1974年生まれ。愛知県出身、紆余曲折の末、新潟県在住。 詳細プロフィールはこちら

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