もくじ
行き過ぎた断捨離
物を捨てられない人が増えつつあるが、うちの母ちゃんは、なんでも捨てる人である。
私が小学校低学年のころ、図工の授業で牛乳パックを使った工作があった。
締め切りに間に合わんので、家に持ち帰って作成。
なんとか締め切りに間に合わせ、提出日にそれを学校に持って行こうとすると、玄関に置いておいたブツが無い。
探しまくるが、家中まったくない。
母ちゃんに、ブツの行方を知らぬかたずねると
「なに?工作?」
「あ、あれか。捨てたわ」
と悪びれる様子もなく答える。
家の外ではゴミ収集車がゴウゴウと音を立てている。
慌てて外へ飛び出すが、既にゴミ収集車は発進しており、追いかけてダッシュするが追いつくはずもなく、収集車は去っていった。
仕方なく家に帰り、泣きながらどれだけ俺が苦労して作ったものか、本日提出すべき宿題をどうするつもりか、責任を取って先生に説明しろと母ちゃんにうったえるが
「今度からはゴミと間違われないような、もっといいもんを作れ」
とけんもほろろに断られたのである。
苦い経験は続く
高校受験を控えた中学三年のある日、深夜の受験勉強に備えて夜食を作っておいたのだが、いざ食べようとすると無い。
みると、ごみ箱に捨てられておる。
母ちゃんに、なんで捨てたのか詰問するが
「汚ねえから捨てたわ!」
と言う。
「夜食をどうするのか!」
と問い詰めるが
「夜食だとう?」
「部活引退して、デブデブに太りやがって」
「人は栄養がなくなれば脂肪からそれを摂るんだ」
「腹が減ったんなら、お前の肉を食え!(脂肪から栄養を摂取しろの意味らしい)」
と、とんでもないことを言われて空いた口がふさがらなかったものである。
上京後も続く
その後、私が上京したのを機会に、私のもの、大切なCDとか、なかなか手に入らない本だとか、今ではYouTubeにてもUPすればそこそこの再生数を稼げそうなバラエティー番組を録画したビデオだとか、ラジオ番組で、ハガキが読まれてもらった景品だとかの一切合切を、まるで私がこの家に存在しなかったかのように捨てたのである。
帰省した際に、捨てた理由を尋ねると
「汚ねえから捨てたわ」
の一言。
私のものは全部捨てていたが、代わりにガマガエルが寛永通宝みたいな古銭をくわえた置物だとか、変な風水の石の塊だとかの開運グッズめいたもんばっかり買いまくって元、俺の部屋に置きまくっているのである。
母ちゃん、東京に現る
上京して10年以上経ち、当時小学生だった甥っ子や姪っ子を連れて母ちゃんが東京の我がアパートにやってきたことがある。
母ちゃんは疲れたから私の部屋で休むといい、私は甥っ子や姪っ子を連れて東京見物に出かけた。
見物を終えてアパートに帰ってくると、ベッドに布団がない。
母ちゃんに布団をどうしたのかと尋ねると
「臭えから捨てた」
という。
そのため、私はしばらくの間、寝袋で寝ることになったのである。
今日は私の誕生日
私も今日で43歳です。
どうにかこうにか、自らの肉を食わずに43歳になれました。
お母さん、ありがとう。
つりばんど 岡村
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