もくじ
工校の合格発表
高校の合格発表の日、合否の確認のために校門に向かって歩いていると、私と入れ違いに、校門から小走りでニコニコで出てきた奴が、中三の二学期の期末試験の社会で
〝はにわ〟
とだけ書いてあとは白紙。
はにわを漢字で
〝埴輪〟
と書くことができれば正解となり2点を獲得できたのだが、平仮名で書いたために、〇がもらえず△。
結果点数が1点だったと学年中の話題をさらった男だったので、貼り出しの紙を見るまでもなく自分も合格したことを知ることとなった。
嬉しいどころか、結果的には、はにわ野郎でも受かるこの学校に合格させるために、この私を中二から進学塾にまで通わせたてくれた親に対して申し訳ない思い。
工業高校の実態
さて、工業高校に入ると、学校側から嫌というほど思い知らされるのが
「俺たちは高校生ではない」
「工校生だ!」
ということである。
学校からの資料にはことごとく
「君たち工校生は…」
などと書かれており、高校生の文字はない。(気がする)
また、この学校は隔離されたように、畑の真ん中にポツンと建っており、他校の生徒はおろか、街の人とも交流がない。
且つ、自転車通学をしていたのだが、通学の際はヘルメット着用を義務付けられる。
今時のとんがったような通気の穴がある流線形のカッコいいヘルメットではない。
白い、あの、いわゆる、あれである。
これだ。
県内ひろしといえども、高校生でヘルメット着用が義務付けられているのはうちの学校だけである。
ヘルメット着用の理由
よく田舎の小学生が真っ白いヘルメットを被っているのをみると微笑ましく思えたりするが、図体のでかい頭の悪い工業高校生が白いヘルメットを着用している姿は全くのバカでしかなく、今考えると学校側が
「こいつらバカすぎるから街に放置すると何しでかすかわからんぞ」
「バカであることを街の人に知らせないでばいかんぞ」
「ダサい白いヘルメットでも被せとけば、みなも注意するだろう」
などと言ういきさつでヘルメット着用を義務付けられていたのかもしれない。
むろん我々も、
「俺たちだって工校生の前に、高校生なんだ!」
「普通の青春が欲しい!」
と、恥さらしの憎むべきヘルメットなど被るわけがなく、学校を出た途端にヘルメットを脱ぎ、自転車カゴに放り込むのだが、たまに抜き打ちのチェックがあり、屈強な体育教師どもが街のあちこちに隠れ潜んでおり、ノーヘルが見つかるとハンドマイクで
「コラーーーーーッ!!」
と叫んで追いかけてくる。
立ちこぎで逃げるが、さすが若手の体育教師だけあってやたらと足が速く、だいたい捕まることになる。
捕まると、首根っこを捕まれ、その場に正座。
次に捕まるヤツが現れるまで帰してもらえないのである。
なんちゅう学校だ。
工業の授業
工業高校の科目は、一般的な五教科のほかは体育、書道、その他は普通科に通う者には聞きなれない
「工業基礎」「機会設計」「製図」「工業技術基礎(実習)」
等というものばかり。
中でも
「工業技術基礎(実習)」
というのが大半。
これは何をするかというと、作業服に着替えてネジを作ったりハンダ付けをしたりの作業。
我々も我々でこの授業のことを「刑務作業」とよび、教室のことを「雑居房」、謹慎処分で個室に入れられることを「独房にいく」、卒業を「仮釈」と呼んでおり、口癖のように
「仮釈まであと何年だー?」
などと言いあっていたのである。
そのため、思い描いた高校生活とは真逆の世界であり、入学からわずか数日で心の底からモーイヤこんな生活状態。
普通科に行った元同級生
休日にたまに共学の普通科に行った中学の元同級生と話すと
「英語のリーダーはいいんだけどさ」
「グラマーが苦手でね」
などと言っており、こっちとしては何ソレ状態。
我が工校の英語の授業といえば
〝This is the Earth!〟
などと中学一年と全く同じ教科書で、且つ、意味も分からず皆で元気に大声で大合唱している有様である。
そのため、
「「英語のリーダーはいいんだけどさ、グラマーが苦手でね」
などと抜かす奴に対しては
「しゃらくせえ!」
と思い、
「なあにがリーダーだよ!」
「そんな話、聞いてられっか!」
「な?!」
「な?!」
と工校生は工校生同士で結束を固めていくのである。
待ち遠しいのは文化祭
そんな生活が始まったが、とにかく楽しみにしていたのが文化祭。
噂によると、他校の生徒(女子)などがやってきて、楽しく交流ができるらしい。
うちの学校にも学年に四人女子生徒がいたのだが、うちのクラスにはおらず
「噂では、この学校のどっかに女生徒がいるらしい」
というレベルである。
そこへ来ての、中学以来、久々の女子との交流、血気盛んな時期であり、楽しみにするなというほうが無理!
自称中学時代にモテたというやつらが過去の同級生たちに声をかけて回ってくれているらしい。
残った我々は来てくれる女子のために一生懸命準備して、迎えた文化祭当日、他校の二人の女生徒が我が雑居房(教室)に入ってきたが、
スーーーーーッと、
本当に
スーーーーーッと、
立ち止まることなく出て行ってしまったのだ。
俺たちの何がいけなかったのか?
普段、パンツで授業を受けている者も今日はズボンをはいているし。
と全く不可解。
我がクラスで出した出し物が、
〝竹細工展〟
であり、竹で作ったケン玉、竹トンボ、水鉄砲 などの陳列であり、ひなびたお土産屋さんじみてることが
「高校生らしい!」
「他校の女生徒が喜んでくれるに違いない!」
と集団催眠にかかるくらい工校生活は恐ろしいものなのである。
こうなったらバイトだ!
異性と交遊するには、こっちから攻めてくしかない!
バイトだバイト!!
とまず始めたのがコンサートの設営及び警備員。
担当したのが杏里のコンサートであり、しっとり聞かせるものなのでライブ中は楽なのだがライブ前後の愛知県体育館とかのでっかいホールにとてつもない大きさの鉄骨を組み、ステージを作ったり、撤収したりはかなりの肉体労働で当然ながら男しかいない。
「おら新人!」
「弁当もってこい!」
と、このバイトを紹介してくれた仲間がケツを蹴られているのを見て退職。
次にみつけたのは女性がいるに決まっている近所のコンビニ。
今でもたまにある、チェーンではないそこにしかない独自のコンビニ。
その店は、もう無いので書くがアイスクリームの「31」を模して「35」という名のトホホコンビニ。
期待とは別に女性はおばちゃんしかおらず。
且つ、オーナーがドケチで、私がタイムカードを切ったのを見てから残業の指示をだし、残業代は廃棄の菓子パンで払うという横暴さに辟易して退職。
続いて見つけたのが若手の女子がいるという噂の近所の靴下の箱詰め工場。
入ってみると、若手女性はまったくおらず。
いるのは当時日本にたくさん居たアフリカ系の不法入国者と思しき、アポロ、ムキビ、カヤンジャの三人の男性外国人。
彼らと交流を深め、彼らが梅ガムが好物であることを教えてくれたりして、なかなかに楽しかったがやはり女性との出会いがないので退職。
高校生でできるバイトは限られており、もうバイトに夢をみるのはやめた。
ラーメン屋にて
「俺たちの生活どーにかなんねーかなー?」
「工業高校で彼女が出来るなんて夢のまた夢だよねー?」
と相談したのは同じクラスの高校生にして週4日、18:00~22:00でチェーンのラーメン屋を任され、たったの一人で切り盛りしているTという男。
いつも、ほとんどお客はいないが、その日もおらず。
そのラーメン屋で相談したのである。
「好きなだけトッピングさせてやる」
というので、
「俺、一回、メンマを腹いっぱいたべたい」
といって、麺よりも多いメンマを入れたラーメンを作ってくれた。
そのラーメンを食べてたら、メンマの多さに気持ちが悪くなってしまったのをみて
「なんでも手に入れちゃうとつまらんよね」
「どうにかなんねえかなあと思ってるぐらいでいいんじゃない?」
と言った。
さすが、高校生ラーメン屋店長!
達観している。
一方私は、相変わらず、どうにかならんもんかを日々模索。
後日、麺より多いチャーシューをトッピングしたラーメンを所望し、やはり途中で気持ちが悪くなる相変わらずのアホぶりなのであった。
追伸:もちろん、高校三年間、彼女は出来ませんでした。
つりばんど 岡村
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