もくじ
送別会&歓迎会
ピザ屋を辞めることにしたので、某製紙工場の求人に応募し、若いこともあって合格。
私以外の辞める人への送別会的な意味合いと、新体制でも残る人たちの決起集会的な意味合いの飲み会を行われることとなった。
場所は個室の居酒屋だがカラオケのある大パーティールーム。
これまでの思い出話で盛り上がる我々に引き換え、新体制の、痩せぎすの銀縁メガネの新店長は面白くなさそうである。
別に関係がないので、新店長以外の我々はバカ話で盛り上がったり、カラオケで大合唱をしておった。
面接のとき
「俺は右腕が欲しい!」
などとのたまった元気はどこへ行ったか、新店長はムッツリとし、一人で酒をグビグビあおっておる。
当時、私がカラオケで得意としていたのがダウンタウンブギウギバンドの『港のヨーコヨコハマヨコスカ』。
これのギターのリフのトークの部分を即興で、その日にあった出来事とか、これまでの笑える思い出話なんかを語り
「あんた、あの子のなんなのさ」
のキメの部分でオチを付けてフルコーラス歌いきるという、やってみればわかるが、頭が固くなっている今となっては絶対に出来ない芸当をしていたのである。
で、リクエストされた、その日もそれを披露して大成功したのだが、やっぱり新店長は一人だまってムッツリとしている。
新店長は様子がおかしい
トイレに行くと、参加者の何人かがトイレの前でたむろしており、
「店長おかしくない?」
「機嫌が悪いの?」
なんて言っている。
席に戻って、ご機嫌取りの意味を込めて、ビールの入ったピッチャーで新店長にお酌すると、快く杯を受けてくれるのだが、やっぱりムッツリしている。
酒癖が悪いのか、単に気分が悪いのか、よくわからんので
「なんか歌いますか?」
と言って歌本を渡すと、新店長は
〝迷わず〟
と言った感じでササッと曲を選んでリモコンで数字を打ち込んで送信した。
衝撃の『抱いてくれたらいいのに』
しばらくすると、新店長が送信した曲が流れ、ムックリと立ち上がってステージに登った。
曲は工藤静香の『抱いてくれたらいいのに』である。
『抱いてくれたらいいのに』のイントロが始まる。
〝ドンッタッタ、タタンタタンタンタン、タントーンッ!〟
とドラムのタム回しがあり
〝ギュィィィィィン〟
〝ギュィィィィィン〟
という、これでもかというくらいの泣きのギターとともに、女性コーラスが
「フォロミー、ステイウィズミー、フォリンラーブ♪」
などと歌い、楽器が一斉にタンッと止まり、静寂の中、いよいよ新店長が
「抱いてくれたら~」
「いいのに~」
と歌いだすと同時に、新店長のスボンから大量の小便が放出。
ズボン越しにバシャバシャーと大放尿!
ウオーーーーーーーーーーッ!!!
と、個室内大絶叫!
ギャーーーーーーーーーーッ!!!
と場内大悲鳴!
「抱いてくれたらいいのにじゃねえから!」
「誰も抱かねえから!!」
女性陣は一目散に退室。
男性陣は、新店長に部屋中のおしぼりや割りばしを一斉に投げつけ
「バカヤロー!」
「何考えてんだこの野郎!」
と大騒ぎ中の大騒ぎとなり、新店長はこの事件がもとで新オーナーよりクビを言い渡され、別の人物が店長になったのである。
某製紙工場で働き始めた
一方私は、ピザ屋をやめ、近所の某製紙工場で勤務し始めた。
高校卒業から半年後のことである。
この工場は、大企業だけあって福利厚生なども万全だし、給料が高い上、ボーナスもガッツリ出たし、三交代は想像以上に厳しかったし、男しかいなかったが、職場の男どもは60歳から18歳の最年少の私まで幅広い年齢層であり、憎たらしいオヤジもいたが、基本的には、酒のことを〝ガソリン〟、生野菜のことを〝草〟という荒くれものの海賊野郎どもといった風情で、清々しく、私にも仲良く親切にしてくれたこともあり、ピザ屋とはまた違った楽しさがあったのである。
などと言うと、
「本当はピザ屋に未練があったくせに」
などと言われそうだがそんなことはない。
実を言うと、好きな人とはピザ屋をやめても付き合っていたので
「もう、こっちはピザ屋に未練はないもんねー」
と思っていたからだ。
つりばんど 岡村
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