30キロの壁
ギリギリで30キロの関門を抜けると、脚が棒のようになり、ずっとこむら返りのまま走っているかのような感覚になる。
って実際こむら返りしていたのかもしれない。
途中で大きなポリバケツに冷水が入れてあって、ヒシャクが突っ込んであるものを発見。
おじさんがそれを脚にかけてあげたりしている。
私は限界に近いので、そのポリバケツに靴を履いたまま脚ごと入らしてもらった。
『冷たくてなんて気持ちいいんだ』
『もうここから出たくない』
などと思う。
靴が水分を吸い、グショグショでズッシリと重たくなる。
レース前は、マラソンシューズについていろいろと調べ、最終的に
「やっぱりこっちの方が20グラム軽いからこっちだ!」
などと聞いた風なことを言っていた自分がバカに思える。
なんとかポリバケツから這い出して再び歩き始めると、次の34キロの関門が300メートルほど先に見えた。
「おーい!あと5分だぞー!」
などとマイクで叫んでいる。
300メートルを5分、普段なら楽勝なタイムだが今は高橋尚子選手級でないと無理なタイムに思える。
というか、高橋尚子さんどこに居るんだ?
『ハイタッチどころか、ぜんぜん会ってねーし』
と思う。
とにかく、ここまで来たら完走はしたい!
まずは、次の関門だ!300メートルダッシュ!
と思うが脚があがらない。
時間ばかりが過ぎる。
〝走れ、走れ〟と思いながらエッチラオッチラ走り、
「あと30メートルー!」
と沿道の人がいったところで、私の前を走る男性二人組がこちらを向いて両手で大きく×の字をつくる。
関門に白いロープがひかれ、〝タイムアウト〟を表す。
『そんなロープなくったって、突破できねーわー』
と思い、私はそのとき、
「ハッハッハッハ!」
と声を出して笑い、そのまま、映画プラトーンのような格好で、後ろに倒れたのである。
『終わった』
『終わってくれた』
と、仮に34キロ地点をクリアしても、ゴールまで実はあと8キロ以上もある距離をとても時間内にクリアできたとも思えず
『締め切ってくれてありがとう』
と心の底から思ったのである。
タイムアウトのあとは
タイムアウトになると、スタッフの誘導で道の脇に集められる。
10分ほどして、件の真っ赤な〝選手収容〟のバスがやってきた。
皆、バスの入り口で一枚づつ配られる自衛隊で使うような毛布を手にして乗り込んでいく。
〝護送〟
の文字が頭に浮かぶ。
ひたいを窓につけ、ただじっと外をみる。
バスの中では誰も口を聞こうとしない。
別に落ち込んでいる訳ではない。
精も根も疲れ果てて思考停止しているだけである。
(つづく)
つりばんど 岡村
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