【もしも貧乏のどん底で、大金の入った財布を拾ったら】あなたならどーする?②

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トイレで拾った財布を確認する

 

財布には免許証も入っており、写真を見るとガラの悪そうな顔をした若い男性。

こんな顔をした人は悪いことをして稼いだ金に違いない。

私が使ってあげてこそ価値のある金だ。

これだけあれば、東京で生活を立て直せる。

放送作家への道も絶たれずに済む。

 

あわよくば引っ越しが出来るかもしれない。

何かのお告げだと思うことにする。

武士の情けとして、財布とかカードやらなんやらは届け出て、現金は初めから入ってなかったと言ってしまえばいい。

そうしよう!

 

と、思ったのだが、財布の中に定期券が入っているのを発見。

この人、現金も一切もってなくて、定期券もなしでは駅からも出られてないんだろうな。

必死で構内を駆けずり回ったり、関係各所に問い合わせたりしているんだろうな。

と思ったら、なんだか可哀想になってしまった。

落語の〝芝浜〟の大家さんの言葉を思い出して

「こんな金、一銭でも使ったら命を取られることにもなりかねない」

と思って、泣く泣く、しぶしぶ、

 

「俺は、届け出るぞー!」

「バカみたいだが、届け出るぞー!」

 

と、嫌なのに、行きたくないのに、無理に、迷いに迷いながら構内の駅員室へ入っていった。

 

 

駅員室で

 

 

「あのう、財布を拾ったんですけど」

 

「そうですか、わざわざありがとうございます」

 

「いえ」

 

「中身はどれくらい入っているか見られましたか?」

 

「それが結構入ってるんですよ」

 

と財布を広げると担当の駅員さんも目を見開いておった。

 

そのあと、書類に自分の名前やらなにやらを書きこんで

 

「なんかあったらまた連絡します」

 

とのことで、再び電車に乗って帰宅した。

 

アパートで

 

荷物のほとんどないアパートで安い焼酎を飲み始めたタイミングで、携帯に駅員室から電話が入る。

 

「今、落とし主の方が来られまして」

「一言お礼を言いたいと言っておられます」

「代わりますんで」

 

と言って、落とし主が電話口に出る。

 

「いや、本当に助かりました!」

「これは会社のお金で大変なことになるところでした!」

「ありがとうございます!」

「会社のお金なんで謝礼は支払えませんが、本当にありがとうございます!」

 

と言っている。

 

「別に謝礼なんかはいりませんけどね」

「大金を、拾う側にもいろいろと思うところがあるんですよ」

「そんなに大切な金は、カバンに入れて抱えるように持っててください」

「だいたい会社の金を尻のポケットに入れとんじゃねーよ!」

 

と大金を取りそこなった悔しさと、届け出た驕りもあり、いつになく説教じみたことを言ってしまった。

 

私は

「いいことをしたんだから、青森でとてもいいことが起こるんだろうな」

と自分を言い聞かせながら、数日後、青森に旅立ったのである。

結果は、あまりいいことはなかったのだが。

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つりばんど 岡村

「健やかなるときも、病めるときもアホなことだけを書くことを誓いますか?」 はい、誓います。 1974年生まれ。愛知県出身、紆余曲折の末、新潟県在住。 詳細プロフィールはこちら

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