もくじ
大仁田厚登場!
で、いよいよエースの大仁田厚が登場する。
会場中、もう本当に熱狂で訳が分からなくなる。
試合内容なんて別にどうでもいい。
リングサイドに大仁田信者の男どもが集まり、とにかく
「オーニタ!オーニタ!」
と声も枯れよと絶叫する。
後ろからもギュウギュウと押されて苦しいが問題じゃない。
とにかく
「オーニタ!オーニタ!」
「オーニタ!オーニタ!」
と叫ぶ。
もうそれだけ。
試合中、近くに大仁田が倒れると、その辺りの者が一斉に大仁田にボディータッチをする。
当たり前といえば当たり前なのだが、大仁田が超汗臭いことにも気が付いて、ファンは一瞬集団催眠から覚め知らない者同士で
『なんか臭いね』
と目くばせをするがすぐに
「オーニタ!オーニタ!」
「オーニタ!オーニタ!」
の声で再び催眠状態に入って行く。
で、大仁田は負ける。
だいたい負ける。
で、泣く。
お決まりで泣く。
![](https://i0.wp.com/tsuriband.com/wp-content/uploads/2018/03/c6ca4bf7f4aa96757d855e16668ae681.jpg?resize=388%2C279&ssl=1)
大仁田厚のマイクパフォーマンス
で、泣きながらスタッフから投げ込まれたマイクを持つ。
マイクを持って何か話そうとするが、試合直後で息苦しいのだろう
「フンッフンッフンッフンッ」
となんども短く息をする。
で、何か話そうとするが、まだ苦しいのだろう再び
「フンッフンッフンッフンッ」
となんども短く息をする。
で、ようやく呼吸も落ち着きかけて放つ第一声は
「お前らッ!」
である。
間違いなく、第一声は
「お前らッ!」
である。
で、続く第二声は何かと言うと、
「お前らッ!」
である。
第二声も同じく
「お前らッ!」
なのである。
つまり、大仁田はマイクを持つと
「フンッフンッフンッフンッ」
「フンッフンッフンッフンッ」
「お前らッ!」
「お前らッ!」
と言うのである。
毎回同じである。
お前らと言われた我々は固唾をのんでなにを言われるのか待つ表情を一応はするのだが、内心このあと何と言うのか全員が知っている。
で、三言目に
「お前らッ!俺らは生きとんじゃっ!!」
と言ってマイクをリングに叩きつける。
言われた我々は、
『生〝お前ら俺らは生きとんじゃ〟が聞けたな』
と思い喜ぶ。
![](https://i1.wp.com/tsuriband.com/wp-content/uploads/2018/03/510KI2qPGRL._SX353_BO1204203200_.jpg?resize=230%2C324&ssl=1)
水吹きの儀式
ここからが本当に今から考えると異常な儀式が始まる。
今度はスタッフから赤や青のペンキが塗られたビール瓶がリングに数本投げ込まれる。
ビール瓶の中には水が入っている。
それを大仁田が掴むと中の水を口にする。
で、リングサイド周りに集まった我々観客に向かって
「プーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッツ」
と口に含んだ水を噴射するのである。
リングサイドの四方八方に向かって
「プーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッツ」
また水を口に含んで、次は、大仁田の衣装を掴むファンの顔に数センチの所から
「プーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッツ」
と次々にファンの数人かの顔面に向かって噴射される。
偶然にもこの時、私も大仁田厚から顔面に直接水を噴射され
「ああ、幸せだ」
と恍惚の表情になったのである。
今から考えるとただただ気持ちが悪い。
で、水吹きの儀式が10分ほど続くと、大仁田はリングを降りる。
控室まで歩く大仁田厚
降りて、負傷した脚を引きづりながら控室に戻ろうとする。
我々リングサイドで試合を観ていた大仁田信者はそれで終わりと思っているのだが、控室に戻る大仁田に対し、それまで近くで見ることのできなかった者達が押し寄せ、もみくちゃにされて倒れる。
倒れると再び
「オーニタ!オーニタ!」
「オーニタ!オーニタ!」
と大仁田コールが起こり、大仁田が立ち上げるのをみんなが見守る。
大仁田は、立ち上がり、再び控室に向かうのだが、何度も何度も倒され、何度も何度も立ち上がるのが遠くから見える。
あまりの執拗さに疲れ果てたのか大仁田は苦笑いで
「もう帰らせてくれよ」
とつぶやいたのが印象的である。
が、図に乗ったファンはそれでも大仁田にまとわりつき、大仁田が倒れる。
すると、大仁田を心配に思った(フリをした)ファンの一人が大仁田に駆け寄り、肩を貸す形で立ち上がった。
見ると、そいつははぐれた友達であった。
バカヤロウ、面白いことをやりやがって、と思う。
そのままその友達は、大仁田と肩を組みながら控室へ向かう扉の向こうへと消えていった。
後で聞くと、扉が閉まった瞬間、大仁田から
「もう、いいから」
と冷たく言われ、大仁田は脚を引きづることもなく、奥へ消えていったと言う。
(つづく)
つりばんど 岡村
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