魔の巣窟Hのマンション
Hのマンションで、元バンドのメンバーで集まった。
当時酒が飲めなかったので、一人ウーロン茶を飲む。
Hは手帳をめくりながら
「この間の俺の負け分、いくらいくら、お前に払うわ」
と言いながら金を払ったり、
で、購入した酒やツマミの代金を割り勘にし、こまかく手帳につけながら
「負け分から今日の割り勘分を差し引いて、あといくらいくらね」
などと言ってくる。
よっぽど金に汚くなった模様で、昔のバンド時代の清々しさなど微塵もなく悲しくなる思い。
で、案の定支払いについて言及されたが
「次、金が出来たら払う」
と言って逃げた。
Hは
「絶対に払ってもらうからな」
など言っていたが酒に酔ってそのまま寝てしまった。
雑魚寝風景
で、他のメンバーもそのまま酔ってごろ寝。
『支払う金は無いし、それどころかサラ金に払う金さえままならんし、まったく俺はこの先どうなってしまうんだろう?』
などと考えいつになく落ち込み、元気も全く無い。
私一人が固い床で眠れずに壁にもたれて座りながら、始発までの時間を待つ形になったのである。
寝ているHの顔をみる。
寝ている顔だけは昔のバンドの頃の、一緒にベースのヤツのチャリンコのサドルを外して、サドルが刺さっていた穴にでっかい〝祭〟と書かれたウチワを突っ込んだ頃のHである。
『変な組織に入ったあたりからおかしくなったんだな』
と憐れむが、憐れんでばかりもいられん。
『母ちゃんの財布から金をくすねるしかねえんだなあ』
『ああああ』
と思いながらHの顔をみる。
『どうでもこいつは私に金を払わせるつもりなんだなあ』
『ギャンブルは恐ろしいなあ』
『友情もへったくれもねえんだなあ』
『世の中は厳しいもんだなあ』
と更に落ち込んでいたが、Hの顔をマジマジと睨んでいると
『くそ、この野郎のせいで』
と思うと、ムカクカする思い。
『この野郎のせいだバカヤロウ!』
と、自分が悪いのではなく、全部Hのせいだと思うと
『なんで俺がこんな目に遭わなきゃならんのだ!』
『絶対に負けねえぞ!』
と急に、いつもの悪魔のような性格の自分を取り戻し、にわかに元気が復活!
『なあにがギャンブルだこの野郎!』
『酷い目に遭わせてやる!』
と、どう仕返ししてやろうか考えているとHがグーグーとイビキをかきはじめた。
『のんきにイビキなんぞかきやがって』
と思ったとたん、ふと、
『母ちゃんではなく、こいつの財布から金を奪ってやろう』
『こいつの財布から抜き取った金でこいつに支払ってやろう』
という知恵が湧いたのである。
まあ、それを知恵っていうのかは別として。
(つづく)
つりばんど 岡村
最新記事 by つりばんど 岡村 (全て見る)
- 保護中: テスト104 - 2023年10月21日
- 舞いあがれ!片づけいらずの紙ふぶき - 2021年2月26日
- コサックダンスが踊れるマシーン! - 2021年1月3日
最近のコメント