【宅配ピザの配達風景】ドライバーは悲喜こもごも

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若き日のバイト

 

今から20年ほど前、20代の前半は、ピザ屋のバイトで生計を立てておった。

 

いわゆる出前持ちである。

 

出前は、なかなか楽しい。
暑い、寒いはあれど、狭い建物の中にこもって仕事するのとは違って、だいたい外で新鮮な空気を吸ってバイクでチンタラ走ったりしているのは

 

「これが自由だ!」

 

と、まあ、勘違いなのだが、気分が良い。

 

発注する側にも、いろいろいる

 

また、いろんな人の生活が垣間見れるのも面白い。

 

すごい豪邸なのに、中に入るとゴミだらけだったり、玄関にある水槽も緑に変色していたり、しかし本人たちは別にそれを恥じる様子もない家だとか。

またはその逆で小さい家なのに、中はとてもキレイでおしゃれにしてあったり。

 

張り紙だらけの家

 

当時、張り紙だらけの家を二件みた。

一件は、電波系の家で、なにやら意味不明な呪文めいたものや、罵詈雑言の類が書かれた紙が家中に張り巡らされている家。

もう一件は、悪質な金貸しと思われるが、債権者からの督促文言が殴り掛かれた紙が家の外に貼られている家で、両家ともぞっとするものがあった。

 

 

バイト同士の熾烈な争い

 

また、配達するのが楽しみな家がある。

それは若い女性の一人暮らしのマンションなのだが、行くといつも風呂上りのようで、裸に白いバスタオル一枚を巻いただけの恰好で出てくる。

且つ、可愛くて美人なんである。

 

店では、ここから注文がくると、男性バイト同士でジャンケンを行い、勝者が配達することが許されるシステムが出来ていた。

 

あの人、露出狂だったのか、単純にそういう概念が欠落しておったのか未だに不明である。

 

逆に、配達するのが嫌で嫌で仕方のない家もある。

 

それは中年の男性の一人暮らしのアパートなのだが、行くといつも風呂上りのようで、裸に白いハンドタオルで前を隠しただけの恰好で出てくる。

且つ、極度のメタボリック症候群で醜いのである。

且つ、部屋はとても臭い。

 

その上、よかれと思ってなのだろうが

 

「寒いねえ~、これ飲んでって!」

 

などと、紙コップに入った熱々のコーヒーを出してくれる。

熱々なので、飲むのに時間がかかるのだが、飲んでいる間中、世間話に付き合わされるのと、部屋が臭くて吐きそうになるのとで、みんな熱々のコーヒーを無理して一気飲みすることになる。

 

ほとんど地獄である。

 

店では、ここから注文がくると、男性バイト同士でジャンケンを行い、敗者が配達することを義務付けられるシステムが出来ていた。

 

一度、この嬉しいバスタオル美人と苦しいハンドタオル醜男とか同時に注文してきたことがある。

この時、私がジャンケンに負けたのだが、二十歳を過ぎた大人のくせして勝者に対して胸ぐらを掴んでしまったことは、今となっては反省している。

 

 

追伸

 

と、これ書いた直後に風呂に入り、体を洗って湯船に浸かった瞬間、宅配業者がやってきて呼び鈴を鳴らす。

慌てて風呂から飛び出して、ビチャビチャに濡れたまま、Tシャツと短パンを身に着け、商品を受け取ったのだが、身体のラインがくっきりと浮かび上がっており、宅配業者からみたら

 

『身体のラインを強調してくる、ずぶ濡れの醜男』

 

『次回からヤツに配達する者は、配達員同士でジャンケンで決めよう』

 

と思われたかもしれず、昔話だとは言え、あんまり人を悪く言うもんではないなと、更に反省したのである。

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つりばんど 岡村

「健やかなるときも、病めるときもアホなことだけを書くことを誓いますか?」 はい、誓います。 1974年生まれ。愛知県出身、紆余曲折の末、新潟県在住。 詳細プロフィールはこちら

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