間違った前説
私の通っていた工業高校の文化祭に、聞いたことのない名前の落語家がきて、全校生徒で落語鑑賞をすることになった。
体育教師のひとりがステージに立ち、落語鑑賞にあたっての注意事項を説明しだした。
「おい、お前ら!」
「今から落語という古典芸能を演ってくださる!」
「笑え!」
と抜かし、おかげで誰も笑えなくなったことがある。
工業高校は生徒もバカだが、体育教師も似たり寄ったりなのである。
間違った指導
先述の体育教師まではいなかくとも、スポーツの指導などで
「身体が固くなってるぞ!」
「そんなに緊張してどうするんだ!」
「もっとリラックスしろっ!」
などと、とてもじゃないがリラックスできぬことを抜かす者がおる。
リラックスは、相手が心の中からするものであり、その人がリラックス出来るように、
落ち着かせる言葉をかけたり、話題を変えたりして、緊張をほぐすために物事を運んでいく必要があるのである。
にもかかわらず
「リラックスしろっ!」
などと言うのは言語道断、本末転倒なのである。
水泳親子
何年か前に市営のプールに通っていたのであるが、そこには45歳くらいの父親がコーチとなり、
5歳くらいの息子に対して水泳の猛特訓をしていた。
私が行くたびに遭遇するので、ほぼ毎日特訓していたと思われる。
コーチの父親は、プールサイドから
「ジュンちゃーん!(仮名)」
「ジュンちゃーん!」
と息子の名を、ずっと叫んでいるので、チビッ子の名前がジュンちゃんとわかる。
ジュンちゃんは、遊びたい盛りに本当に一生懸命がんばっているなと感心する思い。
「ジュンちゃーん!」
「ジュンちゃーん!」
「ジュンちゃーん!耳に腕をあてて!」
「はいっ電信柱!電信柱!」
などととても熱がこもっている。
言われたジュンちゃんも電信柱のように体をまっすぐにする。
話したことがないので想像でしかないが、私がプールで泳はじめて終わっても続けているので毎日一時間以上はやっていると思われる。
熱血親子とはこのことか。
ジュンちゃんが将来、有名な水泳選手になってくれたら嬉しいと思う。
なんでも、押しつけがましければ、全部台無し
ある日、ジュンちゃんが猛特訓に対し
「もうやだ」
とぐずりだし、泳ぐのをやめたり、適当に遊ぶように泳ぎ出した。
『毎日毎日、こんな練習漬けじゃ仕方あるまい』
と思っていたのだが、コーチの父親は急いでプールに飛び込みジュンちゃんに泳ぎ寄った。
適当に泳ぐジュンちゃんの肩を抱くと
「ジュンちゃーん!」
「ジュンちゃーん!」
「なんでマジメにやらないのっ!」
「あのね、楽しく練習するのと、いやいや練習するのでは結果がまるで違うんだよ!」
「ジュンちゃーん!」
「楽しく練習しなくちゃダメでしょ!!」
と言った。
いや、だったら楽しく練習できるように雰囲気を作ったり褒めたりすかしたり、持ち上げたりけなしたり
うまく物事を運ぶのもコーチのつとめだと思うのだが、相変わらずこのコーチは
「ジュンちゃーん!」
「なんでマジメにやらないのっ!」
「ジュンちゃーん!」
と言い続けているので、困ったものである。
それまでがまんしていたが
「だいたいジュンちゃんジュンちゃんうるせーよ」
と思ったのだった。
北風と太陽の例え話があるが、強制的な太陽は、北風以上に厄介なのである。