【上京する若者へ】 詐欺被害に遭わないために! 【一挙読み】

夏の日の1994

 

上京したての二十歳の夏。

バイトが休みだったが、やることもないので、昼過ぎから電車に乗って新宿へ行く。
歌舞伎町に入って行き、もうすぐで当時あったコマ劇にたどり着く当たりで、
歯抜けのチンピラのような男が近寄ってきた。

 

「風俗に興味はないか?」

 

「うちにはあっち系のビデオに出ている女優が多数在籍している」

 

などと声を掛けて来た。

ポン引きである。

血気盛んな頃であり

 

〝血気盛ん〟

 

とは、言い換えれば

 

〝分別のつかないバカ〟

 

とも言えるので足を止めて話を聞く。

 

ポン引きは小型のアルバムを出して、有名AV女優らの写真を見せつけてくる。

 

「ほら、ここに写ってる子たちなら、数分で準備できるよ」

 

などと言う。

値段は、ホテル代は別として20,000円ポッキリであるという。

 

20,000円と言えば大金である。

生活も苦しく、食えない日には、鰹節を一握り食って1日の食事としていたような有様で
風俗なんぞに大金を使っている場合ではない。

 

場合ではないのに

 

「じゃあ、この写真の人を頼む」

 

と言ってしまった。

 

 

 

若い男ってヤツは

 

給料日直後で銀行から引き出したばかりの金が、たまたま財布にあったのも悪かった。

 

「あっちのビデオの女優が出てくるなんてすごい!」

 

「さすが東京だ!」

 

「新宿は歌舞伎町だ!」

 

と、財布から金を出そうとするとポン引きは

 

「金は後でよい」

 

「ホテルでいただく」

 

という。

そりゃ、街で現金受け取るわけにもいかんのだろうが、当時はそんなこともわからない。

ポン引きについて歩いていくと、歌舞伎町の奥の方のホテル街に行く。

そんなところがあるとは知らなかったので、なんだか怖い思い。

一件のボロッちいホテルに着く。

入り口の所にカウンターがあって、そこに老婆がおり、昼間の休憩分のホテル代2,500円を支払うように言われ、支払う。

 

男二人で部屋に入る。

男は当時流行り出した携帯電話で事務所らしきところに電話をし、女性をこのホテルの、この部屋へ派遣するよう頼んでいる。

 

 

電話を終えると

 

「じゃあ、数分で女の子が来るから」

 

と言って金を請求する。

 

『何事も段取り通りいっているなあ』

 

と鼻水も垂らさんばかりにアホ面丸出しで思いながら20,000円をポン引きに渡す。

ポン引きは嬉しそうに

 

「では、楽しんで!」

 

と言って出て行った。

アホがホテルで

 

『AV女優、早く来ないかなあー』

 

とワクワクしているアホが汚いラブホの一室で一人。

ベッドに腰掛け、タバコなんぞを吸う。

 

『改めて、あっち系のビデオの女優、早く来ないかなあー』

 

と三本目のタバコを吸い終わったくらいで、さすがのアホも

 

『なんかが変だな』

 

と思い出す。

 

『これはもしかして』

 

『ひょっとすると』

 

と思うが

 

『いやいやそんなことない!日本にそんな悪い人いない』

 

『もし、そうだとしたら、俺の二万はどうなる!?』

 

『俺の生活はどうなる!?』

 

 

「ていうか、騙されたー!!!!」

 

 

と、ようやく思い当たり

 

「とっ捕まえてやる!」

 

思ったところへ、部屋の呼び鈴が鳴った。

 

 

現れたのは・・・

 

『やっぱり、日本にそんな悪い人はいない!』

 

『ポン引きさん、疑ってごめんなさい』

 

「はーい、今、開けまーす」

 

初めてのいよいよあっち系のビデオ女優とのご対面に緊張する。

 

向こうは知らないが、こっちは見知っているという状況。

 

『何と言って話し出そう?』

 

『もう大ファンだってことにしよう』

 

と決めてドアを開けると、あっち系の女優とは似ても似つかぬカラーコンタクトをしたダルマのような女が

 

「暑いねー」

 

などと言いながら部屋に入ってくる。

 

「あ、そうっすね」

 

と、意気消沈して答える。

 

『・・・あっち系のビデオ女優じゃない』

 

しかし、よく考えてみれば一旦、二万をだまし取られたと思ったが、
たとえカラコンのダルマであっても、こうやって女性がやってきたのだ。

 

 

気を取り直しまして

 

もういい、女優でなくてもいい、ダルマであってもいい。
わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい

この際なんでもいい、と、気を取り直そうとすると

 

「じゃあ、先にお金ね」

 

と言う。

 

「え?」

 

「60分コースなんで25,000円」

 

「いや、そういうことじゃなくて・・・」

 

「・・・なによあんた」

 

「いや、金ならさっきの男の人に払ったけど」

 

「なに、男の人って?」

 

「さっき事務所だかに電話した人だよ」

 

「そんなやつと私は、なんにも関係ないよ。私は金もらってないんだから払いなよ」

 

というか、そもそも財布の中には、既に帰りの電車賃である数百円しか残っておらず、払えるはずがない。

 

普段は気が弱いが、意外と居直ると強気になるのが私である。
騙された怒りと、これからの生活の不安でヤケクソになり、
窮鼠猫を噛む状態になり、恐いものに対する危機感も薄れている。

 

「というか、もう金がねえから払えるわけがねえだろ」

 

「こっちはお前らに騙されたんだ。お前が、俺に金を返せ!」

 

「それが出来ないんなら、さっきの男を呼んでこい!」

 

と問い詰めるが

 

「・・・ホントに私は、そんな男知らないんだって!」

 

という。

 

「それならさっきのヤツを探し出してやる」

 

「その上でグルかどうかは判断する」

 

と吐き捨てて、カラコンダルマを部屋に残してホテルを飛び出していった。

ポン引き大捜査線

 

さっきポン引きが声をかけてきたコマ劇前に行くが、ヤツはいない。

が、他のポン引きがいたので

 

「あなたの仲間でさっき僕に声をかけてきたのがいるんですが、今どこにいるかわかりますか?」

 

と、声をかけるが

 

「知らない」

 

の一点張り。

 

 

頭に来てるので

 

「知らないっていうかさ、多分、ここらであんた達も同じサギ商売やっているんだから知ってるでしょ?」

 

と問い詰めるも

 

『なんのことやら』

 

の表情。

 

「あっそ、自分で探すから、まあいいや」

 

と言って、あっちのポン引き、こっちのポン引きに次々に同じように声をかけて回る。

 

そうこうししていると、にわかにコマ劇前がざわつき出した。

 

騒ぎの乗じて、さっきのカラコンダルマがいる!

で、夏なのに黒のスーツを着込んだ、ミナミの帝王じみたイカつい男に耳打ちしている。

 

『あのやろう、やっぱりグルじゃねえか』

 

と思い、カラコンダルマに近づいていくと、件のミナミの帝王が

 

「おい、兄ちゃん」

 

と来た。

 

 

ラスボス登場!

 

『こいつが元締めだな』

 

『こいつに金は返してもらう』

 

と決めた。

 

「おい、兄ちゃん。何やってんだ?」

 

「ここらにいた男に、自分の風俗店の女の子を斡旋すると言われてホテルに行って、ホテル代を払って、男に代金を払って男は去っていきました。
 やってきた女も、また代金を払えというので、騙されたと気が付きました。
 金を返してもらうために、さっきの男を探してるところです。」

 

「あのなあ、兄ちゃん。例えばタクシーに乗って、目的地に着いたが、それが目的地と違ってたからって金を払わなくていい訳がないだろう?」

 

「タクシーに例えるんなら、僕は目的地に着いていません。乗ってすぐ降りた形です。タクシーであれば初乗り運賃くらいで済むはずですが。
 ホテル代を返せとは言いません。支払った20,000円を返してもらいます」

 

「そんなもんは、勉強代だと思って諦めな」

 

「20,000円は、僕にとって大切なお金です。勉強代には高すぎます。生活もままなりません。死活問題です。」

 

「生活に困るような金で遊ぼうとするなー!!!!!!!!!」

 

 

 

『まったく仰る通り!!』

 

と拍手したくなったが、ここで引き下がるわけにはいかない。

 

食い下がる若者

 

「じゃあ、さっきの男と直接話しますんで、紹介してください」

 

「おいおい、なんでそこまで必死になるんだよ?!」

 

「ですから、僕にとっては死活問題ですから」

 

などと言っていると異変に気が付いたポン引きどもが私と、元締めを取り囲む形になっている。

それに気づいてあたふたしていると

 

「な?ケガしないうちに帰れよ!」

 

と言われて、

 

スタコラサッサ

 

という風に歌舞伎町を後にした。

 

今、思い返してみると、登場人物全員悪人で

 

『誰にも感情移入できない話だな』

 

と思った。

【バンドあるある】 仁義なきバンド内抗争【一挙読み】

この物語の登場人物

 

・私(工業高校二年生/ボーカル担当)

・K(普通科高校二年生/ギター担当)

・N(商業高校二年生/ベース担当)

・H(商業高校二年生/ドラム担当)

ほか。

 

バンドの貯まり場はNの家

 

春の、土曜の昼過ぎ。

高校時代、当時組んでいたバンドのメンバーの貯まり場のようになっていたベース担当の友人Nの家にいくと、いつも通りギターのKと、ドラムのHも来ている。

が、なんだか空気がおかしい。

 

「お前、裏切る気か!」

 

「俺たちより、そっちをとるのか!」

 

「それでパンクと言えるのか!」

 

などとNが責められている。

 

往年の学生運動のような気配である。

Nも憮然とした態度で

 

「そっちの約束の方が先だ」

「というか、お前ら勝手に来といて裏切るも何もない!」

 

と言っている。

 

話を聞いてみると、その日、Nの通う(私の憎む)商業高校の男子生徒がコピーバンド

(どうせBOOWYあたりの)

を組み近所の神社にある公民館でライブをするという。

 

そこにNは客として参加する。

そのため、集まってきた者に家から出ていけといったのが発端。

 

出ていけと言われたメンバー二人が

 

「お前の都合で貯まり場を明け渡すわけにはいかない」

 

「お前の家であって、俺たちの家でもある」

 

と言って喧嘩になったらしい。

 

 

女子高生との集いのチャンス!?

 

Nがあくまで正しく、その他の友人が無茶苦茶な言い分だと思ったが、そのライブには商業女子がわんさか来るという。

そこで私はNに

 

「みんなでそのライブに行くわけにはいかんか?」

 

と素直に提案してみたのであるが

 

「仲間内でやるライブなんで」

「他校生はちょっと」

 

などとニベもない。

 

これには私も

 

「工業高校を差別すんのか!」

 

「工業高校生にも人権はあるぞ!」

 

と怒り心頭。

 

『Nだけ良い目にあわせてなるものか!』

 

と、カンダタ根性丸出しになり、他の仲間と一緒になって

 

「行くんなら俺たちを踏み越えて行け!」

 

「家を出て、一歩での二歩でも歩けるもんなら歩いてみろ!」

 

と必死にNのライブ行きを阻止を試みる。

 

キレたN

 

Nは我々を一切無視。

平然と、この日のライブ用に、若者向けの紳士服屋で買っておいたらしい彼なりの勝負服と思しき

英字のプリントシャツと、ブラックジーンズに着替えている。

 

 

星条旗のキャップをかぶり、仕上げにジョンレノンのような丸いサングラスをかけ

 

「じゃあ勝手にすれば!」

 

と吐き捨てて出ていこうとする。

 

 

「それがてめえの考えるロックファッションか!」

 

「ロックに謝れ!」

 

などと背中に向かって叫んでいたが、聞こえぬふりをしてNは家から出て行ったのであった。

Nへのジェラシー

 

残された我々は、どうにもこうにも腹が立つ思い。

別に貯まり場を確保したかったんじゃない。

女子高生と交流を持ちたかったのである。

 

だいたいNは、身長はあくまで小さく、武田鉄矢のような顔をしておる。

だいたいが女などにもモテる要素が一切ないというのに商業高校へ進んだというだけでバレンタインにチョコレートなんぞを貰い
ホワイトデーのお返しに何か気の利いたものでも買おうと、今は無き

 

〝ファンシーショップ〟

 

なんぞに入っていったところを、運悪く私が発見。

私もNに続いて、こっそりファンシーショップへ入っていくと、

Nがクッキーの入った小瓶なぞを口半開きで品定めしているところを目撃し、
気持ちが悪くなって、Nに声をかけぬまま出てきた。

その一件以来、私はNに腹に対して据えかねるところがあったのである。

 

 

   ※写真はファンシーショップ

 

残された者たち

 

しかし、Nはもう家から出て行ってしまったのである。

まさかこのままN宅で遊んでもおれず、勝手に出て行ったNをなんとか辱めてやろうと思案を巡らす。

 

ギターのKは、絵にかいたようなギタリストで高校生ながらバカテク、且つ、細身で長身で二枚目というNとは対照的な男。

且つ、バンド内でも一番クレージーな男である。

 

Kは普通科に通っているが、クラスの暴力的なヤツに腹を立て

 

「湯気が立っていなければ意味がない」

 

と、意味不明なことを口にしながら学校に炊飯ジャーを持参。

 

見つからないように、そいつの上靴に炊き立てのご飯を敷き詰め、真ん中に梅干しを置いて日の丸弁当を作った伝説を持つ男。

そのKが持前のクレージーさを炸裂させて

 

「こうしてやる!」

 

と言って、Nの部屋の中にある物を部屋の真ん中に寄せ集め、マンガ本やらなんやらを塔の様に積み上げていく。

 

我々もそれを手伝い

 

「帰ってきたら、部屋にトーテムポールがあるという寸法だ」

「ざまあみやがれ!」

 

と言いながら天井まで届きそうな、タワーが出来上がり、頂上にはプラスチック製のハロウィンのカボチャを置く。

 

「これだけではインパクトに欠ける」

 

として、卒業アルバムをコンビニに持ち込み、Nの顔を大量に拡大コピー。

それに画びょうを指しまくったものを、部屋のあちこちに貼り付けたのである。

 

 

  ※写真はトーテムポール

 

エスカレートする若者たち

 

「これだけやっておけば、今後は、我々コルレオーネファミリーに逆らえまい」

 

とNの家から出ていこうとするが、我々の悪ノリもエスカレートしてきており

 

「これだけでは、まだまだ腹の虫が収まらん」

 

 

「ライブ会場で、女子高生の前で、恥をかかせなければ意味がない!」

 

と、昔からNの部屋にあり、タワーに刺してあった

 

〝祭〟

 

と書かれた、赤いでっかいウチワを抜いて、それを持ってライブが行われている公民館に向かったのであった。

 

敵は公民館にあり!

 

自転車に乗って数分で公民館近辺についた。

たかだか高校生のコピーバンドだが、結構人だかりができている。

まずは、ライブが始まって、これらのギャラリーが会場内へ入るのを、件の〝祭〟と書かれたでっかいウチワを持って、物陰に隠れてこっそり待つ。

 

 

ギャラリーを見れば、麗しき商業高校女子も満載だ。

こんな方々と、いつも授業を受けているNが羨ましい。

 

一方、男子生徒の方は、Nと似たり寄ったりの、せいぜいがプリントシャツか、柴田恭兵を意識したジャケットじみたものを着こんで、これ見よがしにタバコをくわえたりしているバカ者しかおらぬ。

 

『普段から虐げられている工業高校生代表として』

 

『こいつらに一杯食わしてやらなければならん』

 

の思いを強くする。

 

しばらくしてギャラリーが会場内へ入って行ったので、我々も建物に近づいていく。

 

Nに、どう恥をかかせるか?

 

ライブが終わって、女子高生の前で恰好をつけるであろうNにつかつかと歩み寄り

 

「あ、これ忘れ物だよ」

 

とNに〝祭〟のウチワを持たせて逃走しようということにした。

 

嗚呼ビーバップ野郎

 

「はやくこんなクソライブ終わりやがれ!」

 

などと言っていたら、体がデカくて頭も態度も悪そうなのを筆頭に数人の男が近づいてきた。

Nと同じ商業に通うドラムのHの同級生らしい。

 

 

 

「おい、H」

「こいつら何なんだ?」

 

などと言う。

 

ライブやっているのが、ストーンズなら、こいつらはヘルズエンジェルスの役割をしているのかもしれない。

 

『悲しきビーバップ直撃野郎め』

 

と思っていると

 

クレージー且つ、負けん気も人一倍強いギターのKが

 

「なんだてめえ!」

 

と、食ってかかろうとする。

 

温厚なHが慌てて

 

「友達友達、Nの友達!」

 

とKを制して

 

「なんだ、友達か」

「だったら早く言えよ」

 

等と言って、会場に入っていった。

 

 

ギターのKの全身に青白い炎がメラメラしているのがわかる。

こいつを怒らせるなんて

 

『こりゃあ、しらねえぞ(笑)』

 

と思うのだった。

その名はゴッチー

 

Hに聞くと、さきほどの態度もデカく詰め寄ってきたのは体がゴツイから

〝ゴッチー〟

と呼ばれているいう

 

『商業高校男子って、本当バカ!』

 

と思わざるを得ない、身も蓋もないニックネームを獲得している番長のような男らしい。

 

ゴッチーに目を付けられた以上、ライブ終わりでNにウチワを渡す作戦は、恐らく失敗するだろう。

 

あきらめてなるものか

 

「否が応でもNにウチワを持たすためにはどうするか?」

 

と考え

 

「Nの自転車のサドルの代わりにこのウチワを突っ込んでやろう!」

 

という結論に達する。

 

 

こっそりNの自転車に近づいていき、サドルをスポンと抜く。

そこへウチワの柄をサドルの穴に突っ込もうとするが、柄の方がかなり太くて入らない。

 

「なんか柄を削るもんないか?」

 

と探しているとHが

 

「アスファルトはある意味、もっとも粗いヤスリではないか?」

 

と言ったので

 

「そりゃそうだ!」

 

と、三人交代でウチワの柄を道路でゴリゴリ削り出した。

 

 

会場から、へたくそなBOOWYのコピーが漏れ聞こえてくる。

 

【ONLY YOU!そのままで~♪】

 

『そのままそのままウチワを入れる』

ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ

 

 

【ONLY YOU!たった一度~♪】

 

『一度と言わずに二度三度』

ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ

 

等とやっておったら、ウチワの柄は削った鉛筆のようにトッキトキになった。

 

サドルをドブに捨て、うちわをサドルの穴に刺し、その自転車を三人で持ち上げて、会場の入り口正面に設置して逃げるように帰ってきた。

 

「俺たちを敵に回すと、どうなるか思い知れ!」

 

などと叫び、ライブ終わりでNがどんな気持ちになり、周りからどう思われたのか、想像するだけで笑いが止まらなかった。

 

その後はどうなったの?

 

その後、喧嘩になることなく、お互いに笑い話として理解し、何事もなく四人のバンド関係も、友達関係はそれまでと変わらず続いた。

変わったことがあるとすれば、Nが我々の言うことに対して素直に言うことを聞くようになった気がしないでもない点である。

 

いいおっさんになった今でも、Nの実家には件のウチワがある。

たまに遊びに行くと、その柄の部分がトンガったウチワを目にして

 

『クックックックッ』

 

と笑いが込み上げてくる。

 

ちなみに

 

後日、ドラムのHの引率で、ギターのKが炊飯ジャー持参で商業に乗り込みゴッチーの上靴に日の丸弁当を作成。

その日を境に校内でのゴッチーの地位は、著しく没落したのである。

【いけないナイトプール】夜のプールに忍び込んではいけない理由【一挙読み】

ハロルド作石先生作品の影響

 

漫画家のハロルド作石先生とは全く面識はないが、同郷で、中学校の6年先輩であることもあって、勝手に親近感をもち、もちろん作品がとてつもなく面白いのが前提だがデビュー作の『ゴリラーマン』から全作読んでいる。

 

彼の、映画化もされた『BECK』というバンドを描いた作品の連載が開始されたころ、この作品の中に夜、学校のプールに忍び込んで憧れの女性と泳ぐ美しいシーンがある。

そんな経験は自分にはないのだが、周りの友人に聞いてみるとみんな嘘か本当かしらないが、夜の学校のプールに忍び込んで泳ぐことは一回ぐらいは経験があるという。

私がアホであることをこのブログを読んでいる人は全員しっていると思うが

(知っています)

アホ故、何事にも影響を受けやすく、

 

「俺は工業高校で、学生生活にはそんな思い出はなかった!」

 

「俺も夜のプールで泳ぎたい!」

 

「青春を取り戻す!!」

 

と、思っていたところ、夜に散歩をしていたら、ちょうど季節が夏であり、当時住んでいた都内某市の屋外市民プールがあったので絶対にやってはならないことなのだが、くれぐれも、絶対にやってはならぬことなのだが、衝動的に忍び込むことにした。

(アホ)

 

一応、誰か見ていないか周りを見渡す。

人はいなかったが、プールを取り囲むフェンスに

 

〝このプールは24時間機械監視されています〟

 

とプラスチック製の注意書き看板が掲げられている。

 

プールに忍び込んではいけません!

 

改めて辺りを見渡すが、機械で監視しているようにはとても見えない。

 

「機械監視?」

 

「面白い」

 

「ロボコップ呼んで来い!」

 

などと訳のわからんことを思い決心を固めたが、フェンスの上には案の定、鉄条網が張り巡らされている。

 

 

フェンスを掴んで一歩一歩登っていきながら

 

「ノーロープ」

 

「有刺鉄線」

 

「電流爆破」

 

「デスマッチ」

 

などと恥ずかしながら大仁田厚直撃世代として、口にしつつ頂上へ到達。

多少の鉄条網での傷には目をつむり、フェンス頂上からプールサイドへ

 

「飛翔天女!」

 

などと言って、飛び下り、足を負傷しながらも着地したのであった。

深夜のプール

 

さて、いよいよ念願の深夜のプールである。

衝動的に潜り込んだため、もちろん水着などは持ってきていない。

衣服を脱いでプールサイド置く。

全裸になるとプールへと静かに入った。

とりあえず平泳ぎで15メートル程度、軽くクロールを2~3掻き、ちょっと潜水、けのび、などをしたらもうする事がない。

 

プールに入って5分も経っていない。

 

「せっかく手足を負傷してまで忍び込んだんだから」

「もうちょっと居ようかな」

 

とただ水に体を浮かせて黒柳徹子さんお得意のポーズをこのブログを読んでいる人は当たりまえにしっていると思うが
(知りません)
それをしていたら、遠くで何か光ったような気がした。

 

「すわっ!」

「ロボコップ!?」

 

と思って体を水中に沈め、鼻の穴から上だけを水面に出して音を立てぬようにプールの隅にゆっくりと移動。

水面に懐中電灯の光があっちへ行ったり、こっちへ行ったりしている。

 

「はやくどっか行けロボコップー!」

 

と思っていたら目の前がパッと明るくなり、
もろに懐中電灯で顔を照らされた形となった。

今思うと、向こうの人も怖かったに違いない。

 

「もはやこれまで!」

 

 

やってきたのはロボコップ?

 

とザバァと音を立ててプールサイドに上がると、懐中電灯を持っていたのはロボコップではなくセキュリティ会社のおじさんだった。

 

〝いやあ、どーもどーも〟

 

という感じでフリチンで頭を下げながら

 

〝まだまだ残暑が厳しいですな〟

 

といった風情で脱いだ衣服を持ち、

 

「もう出ますから」

 

と言い、とりあえず衣服をフェンスの向こうに投げようと思ったら、

 

ウーーーーーーーーーーーーーーーッ

        ウウーーーーーー!

ウーーーーーーーーーーーーーーーッ

        ウウーーーーーー!

 

とサイレンの音がして、パトランプパッカパカでパトカー登場。

 

〝これはこれは〟

〝ポリスのみなさんこんばんは〟

 

と、ひとまず心の中で挨拶をしたのである。

連行

 

静寂の世界から急に騒がしくなったこともあり、心臓もバクバクで、当ブログの読者は全員ご存知の教育テレビのばくさんのかばんの、ばくさんの登場シーン状態。

 

 

「バークバクバクバク~!」

 

(知りません)

 

パトカーから二名のポリスの方が降りてきた。

セキュリティ会社のおじさんがプールのカギを開け、ポリスの方から出てくるように指示される。

 

「手を挙げろ!」

「抵抗すると撃つぞ!」

 

などと言われるはずもなく

 

〝やれやれ〟

 

と言った感じで

 

「署まで同行願おう」

 

とのことでパトカーの後部座席に乗り込もうとすると

 

「ちょっと待って」

 

と言われて、ポリスの方が濡れている私の体で車が水浸しにならぬよう後部座席にビニールシートを敷いた。

私はその上に座り、ドアが閉まり、署に向けて連行されていったのであった。

 

 

事情聴取

 

署につくと、階段で二階へ上り、ドラマでみるよりは小綺麗な感じの取調室らしき部屋へ通された。

 

「では調書をとるから」

 

「はい」

 

「なんでプールに忍び込もうと思ったの?」

 

〝漫画を読んで〟

 

などと答えられるはずもなく、

 

「・・・暑かったので」

 

と答えると

 

「それだけか?」

 

と言うので

 

〝工業高校出身なもんで〟

〝青春を取り戻したかったもんで〟

 

などと答えられるはずもなく、

 

「・・・ダイエットしようと思って」

 

と答えると

 

「家で水風呂入って近所走れ!」

 

と当たり前のことを当たり前に叱られてしまった。

 

「最近は変な人間も多くて」

「プールに糞尿などを撒いたりする者もいる」

「お前はそんなことしてないな!?」

「してません」

「今、市長に連絡して起訴するかどうか確認するから」

 

と言って数十分待たされた。

 

待たされている間にポリスの方々も、ある程度私がそこまでのワルではないとわかると世間話をしてくれたりするようになった。

 

部屋に据え付けられている電話が鳴って、主に話し相手になってくれているポリスの方がソレに出る。

 

「市長は起訴しないそうだ」

 

という。

 

〝こんな夜更けまで市長も大変ですね〟

 

などと言えるはずもなく

 

「ありがとうございます」

 

と答えた。

 

 

 

調書完成

 

さらに数分後、さきほど聞かれた内容が活字になった調書がが机の上に置かれた。

その紙には

 

「私、岡村〇〇は、平成〇〇年、〇月〇日、〇時〇分頃」

 

「暑かったのと、ダイエットのため、深夜に市営のプールに忍び込み連行されました」

 

「深く反省しており」

 

「今後は、二度と繰り返しません」

 

などと書かれており、調書に〝暑かったのと〟などと言った通りに書かれていることがおかしかったが、それに署名するよう促され署名をし、釈放されたのであった。

ここ数年、ナイトプールが流行っているが、このような真似は決してしてはいけないのである。

 

【工業高校生に彼女は出来るか!?】 工業高校番外地【一挙読み】

工校の合格発表

 

高校の合格発表の日、合否の確認のために校門に向かって歩いていると、私と入れ違いに、校門から小走りでニコニコで出てきた奴が、中三の二学期の期末試験の社会で

〝はにわ〟

とだけ書いてあとは白紙。

はにわを漢字で

〝埴輪〟

と書くことができれば正解となり2点を獲得できたのだが、平仮名で書いたために、〇がもらえず△。

結果点数が1点だったと学年中の話題をさらった男だったので、貼り出しの紙を見るまでもなく自分も合格したことを知ることとなった。

嬉しいどころか、結果的には、はにわ野郎でも受かるこの学校に合格させるために、この私を中二から進学塾にまで通わせたてくれた親に対して申し訳ない思い。

 

工業高校の実態

さて、工業高校に入ると、学校側から嫌というほど思い知らされるのが

「俺たちは高校生ではない」

「工校生だ!」

ということである。

学校からの資料にはことごとく

「君たち工校生は…」

などと書かれており、高校生の文字はない。(気がする)

また、この学校は隔離されたように、畑の真ん中にポツンと建っており、他校の生徒はおろか、街の人とも交流がない。

且つ、自転車通学をしていたのだが、通学の際はヘルメット着用を義務付けられる。

今時のとんがったような通気の穴がある流線形のカッコいいヘルメットではない。

白い、あの、いわゆる、あれである。

これだ。

 

 

県内ひろしといえども、高校生でヘルメット着用が義務付けられているのはうちの学校だけである。

 

ヘルメット着用の理由

よく田舎の小学生が真っ白いヘルメットを被っているのをみると微笑ましく思えたりするが、図体のでかい頭の悪い工業高校生が白いヘルメットを着用している姿は全くのバカでしかなく、今考えると学校側が

「こいつらバカすぎるから街に放置すると何しでかすかわからんぞ」

「バカであることを街の人に知らせないでばいかんぞ」

「ダサい白いヘルメットでも被せとけば、みなも注意するだろう」

 

などと言ういきさつでヘルメット着用を義務付けられていたのかもしれない。

むろん我々も、

「俺たちだって工校生の前に、高校生なんだ!」

「普通の青春が欲しい!」

と、恥さらしの憎むべきヘルメットなど被るわけがなく、学校を出た途端にヘルメットを脱ぎ、自転車カゴに放り込むのだが、たまに抜き打ちのチェックがあり、屈強な体育教師どもが街のあちこちに隠れ潜んでおり、ノーヘルが見つかるとハンドマイクで

「コラーーーーーッ!!」

と叫んで追いかけてくる。

立ちこぎで逃げるが、さすが若手の体育教師だけあってやたらと足が速く、だいたい捕まることになる。

捕まると、首根っこを捕まれ、その場に正座。

次に捕まるヤツが現れるまで帰してもらえないのである。

 

なんちゅう学校だ。

工業の授業

工業高校の科目は、一般的な五教科のほかは体育、書道、その他は普通科に通う者には聞きなれない

「工業基礎」「機会設計」「製図」「工業技術基礎(実習)」

等というものばかり。

中でも

「工業技術基礎(実習)」

というのが大半。

これは何をするかというと、作業服に着替えてネジを作ったりハンダ付けをしたりの作業。

我々も我々でこの授業のことを「刑務作業」とよび、教室のことを「雑居房」、謹慎処分で個室に入れられることを「独房にいく」、卒業を「仮釈」と呼んでおり、口癖のように

「仮釈まであと何年だー?」

などと言いあっていたのである。

そのため、思い描いた高校生活とは真逆の世界であり、入学からわずか数日で心の底からモーイヤこんな生活状態。

 

普通科に行った元同級生

 

休日にたまに共学の普通科に行った中学の元同級生と話すと

「英語のリーダーはいいんだけどさ」

「グラマーが苦手でね」

 

などと言っており、こっちとしては何ソレ状態。

我が工校の英語の授業といえば

〝This is the Earth!〟

などと中学一年と全く同じ教科書で、且つ、意味も分からず皆で元気に大声で大合唱している有様である。

そのため、

 

「「英語のリーダーはいいんだけどさ、グラマーが苦手でね」

 

などと抜かす奴に対しては

 

「しゃらくせえ!」

 

と思い、

 

「なあにがリーダーだよ!」

「そんな話、聞いてられっか!」

「な?!」

「な?!」

と工校生は工校生同士で結束を固めていくのである。

 

待ち遠しいのは文化祭

そんな生活が始まったが、とにかく楽しみにしていたのが文化祭。

噂によると、他校の生徒(女子)などがやってきて、楽しく交流ができるらしい。

うちの学校にも学年に四人女子生徒がいたのだが、うちのクラスにはおらず

 

「噂では、この学校のどっかに女生徒がいるらしい」

 

というレベルである。

そこへ来ての、中学以来、久々の女子との交流、血気盛んな時期であり、楽しみにするなというほうが無理!

自称中学時代にモテたというやつらが過去の同級生たちに声をかけて回ってくれているらしい。

残った我々は来てくれる女子のために一生懸命準備して、迎えた文化祭当日、他校の二人の女生徒が我が雑居房(教室)に入ってきたが、

スーーーーーッと、

本当に

スーーーーーッと、

立ち止まることなく出て行ってしまったのだ。

俺たちの何がいけなかったのか?
普段、パンツで授業を受けている者も今日はズボンをはいているし。

と全く不可解。

我がクラスで出した出し物が、

〝竹細工展〟

であり、竹で作ったケン玉、竹トンボ、水鉄砲 などの陳列であり、ひなびたお土産屋さんじみてることが

「高校生らしい!」

「他校の女生徒が喜んでくれるに違いない!」

と集団催眠にかかるくらい工校生活は恐ろしいものなのである。

 

 

 

こうなったらバイトだ!

異性と交遊するには、こっちから攻めてくしかない!

バイトだバイト!!

とまず始めたのがコンサートの設営及び警備員。

担当したのが杏里のコンサートであり、しっとり聞かせるものなのでライブ中は楽なのだがライブ前後の愛知県体育館とかのでっかいホールにとてつもない大きさの鉄骨を組み、ステージを作ったり、撤収したりはかなりの肉体労働で当然ながら男しかいない。

「おら新人!」

「弁当もってこい!」

と、このバイトを紹介してくれた仲間がケツを蹴られているのを見て退職。

 

次にみつけたのは女性がいるに決まっている近所のコンビニ。
今でもたまにある、チェーンではないそこにしかない独自のコンビニ。
その店は、もう無いので書くがアイスクリームの「31」を模して「35」という名のトホホコンビニ。

期待とは別に女性はおばちゃんしかおらず。

且つ、オーナーがドケチで、私がタイムカードを切ったのを見てから残業の指示をだし、残業代は廃棄の菓子パンで払うという横暴さに辟易して退職。

 

続いて見つけたのが若手の女子がいるという噂の近所の靴下の箱詰め工場。

入ってみると、若手女性はまったくおらず。
いるのは当時日本にたくさん居たアフリカ系の不法入国者と思しき、アポロ、ムキビ、カヤンジャの三人の男性外国人。

 

彼らと交流を深め、彼らが梅ガムが好物であることを教えてくれたりして、なかなかに楽しかったがやはり女性との出会いがないので退職。

高校生でできるバイトは限られており、もうバイトに夢をみるのはやめた。

 

 

ラーメン屋にて

「俺たちの生活どーにかなんねーかなー?」

「工業高校で彼女が出来るなんて夢のまた夢だよねー?」

と相談したのは同じクラスの高校生にして週4日、18:00~22:00でチェーンのラーメン屋を任され、たったの一人で切り盛りしているTという男。

いつも、ほとんどお客はいないが、その日もおらず。

そのラーメン屋で相談したのである。

 

「好きなだけトッピングさせてやる」

 

というので、

 

「俺、一回、メンマを腹いっぱいたべたい」

 

といって、麺よりも多いメンマを入れたラーメンを作ってくれた。

そのラーメンを食べてたら、メンマの多さに気持ちが悪くなってしまったのをみて

「なんでも手に入れちゃうとつまらんよね」

「どうにかなんねえかなあと思ってるぐらいでいいんじゃない?」

と言った。

さすが、高校生ラーメン屋店長!

達観している。

一方私は、相変わらず、どうにかならんもんかを日々模索。

後日、麺より多いチャーシューをトッピングしたラーメンを所望し、やはり途中で気持ちが悪くなる相変わらずのアホぶりなのであった。

追伸:もちろん、高校三年間、彼女は出来ませんでした。

【バイクの盗難被害】購入直後にパクられた話【一挙読み】

春の上京

 

二十歳のころ、5月に上京したのだが、その前に地元の大きな製紙工場で三交代勤務で1年半働いて、定期預金を組んで毎月貯金したのと ボーナスやらなんやかんやで100万円が貯まっていたので懐が温かく、毎日働きもせず一緒に上京してきた友人達と 毎日のようにバカ話ばかりして暮らしていたが、二か月もすると貯金も寂しくなってきたこともあり、流石に焦りだし、 たまたま近所でオープンすることになった宅配ピザ屋でバイトをすることにした。

 

バイト先にはこれまで憧れていた若手の女がわんさかおったが、若手の男もわんさかおり、中でも親元で暮らす大学生連中が自動車を持っており、女たちを連日デートに誘っておる。

「このままではいかん!」

「しかし車は買えん!」

なんとかせねばとバイクを買うかと、中型免許をとり、三年ローンで400CCの当時人気のスティードというアメリカンスタイルのバイクを購入した。  

納車の日は嬉しい

 

しばらくして納車の日。

バイク屋のおじさんが、運んできたトラックからバイクを下ろし我がアパートの駐輪スペースへ置いた。

もう、うれしくてうれしくて仕方がなく、何気なくおじさんに対して

「後輪のタイヤが太いんですね」

というと、おじさんは

「このスティードってやつはね、タイヤが太いんだよぉ」

と言った。

   

その日からは、バイクに乗ってバイト通い。

女の子を誘ってツーリングなどに出かけておった。

そんな、納車から二週間がたったある日、バイトが自分だけ早く終わり、他の仲間が夜遅くまでの勤務だったので、 自分は一旦家に帰り、また夜に合流する約束をして別れた。

アパートの前にバイクを停めて、夜まで一旦眠り、時間になったので準備をして駐輪スペースへいくとバイクがない。

「あら、バイト先にバイクを置いて、歩いて帰ってきたんだっけ?」

と思ってバイト先に確認の電話をしたが、俺はバイクで帰ったという。

 

突然のアクシデントには脳がフリーズする

 

頭の中が真っ白になるとはこのことをいうんだな というくらい頭の中が真っ白。

そこへ隣に住む大家さんの娘さんが

 

「あれ?やっぱりバイクとられたの?」

 

「さっき高校生みたいな二人組がバイク押していってたから変だと思ったのよ」

 

何をのんきなことをいってやがる!!!

そんな所を見たんなら早く俺に言わんかい!!!

と腹が立ったが、そんなこと言っても始まらないので先ずは慌ててバイク屋に電話した。  

バイク屋のおじさんに

 

バイク屋に電話をかけ、

「すいません、後付けなんですが、今から購入のときに断った盗難保険に入るって訳にはいかないでしょうか?」

と言ってみたが、当たり前だができぬという。

 

「ただ、そういうのって近くの公園かなんかに隠しておいて、夜中にとりにくるってパターンが多いから」

「今から探してみな!!」

 

と言われ探しまわったが見つからない。

 

  「このスティードってやつはね、タイヤが太いんだよぉ」

  という納車の時のおじさんの声が頭の中でリフレインしている。

 

この頃、心無いやつから

  「今頃、海外で鉄クズになってるな」

  などと言われることが多々あったので、そいつらには徹底的に無視をし、最終的に縁を切った。

 

もうその日からは、連日連夜、暇さえあれば自転車で近所を探し回り

“盗んだバイクで走り出す”などと歌った歌手を呪ておった。

 

この頃はいつも

 

「このスティードってやつはね、タイヤが太いんだよぉ」

 

というおじさんの声が頭の中でリフレインしていた。

 

一か月ほどしたある日

 

いつものようにバイクを探しに出かけたが見つからず  

 

「今日も成果なしか・・・」

 

と思った23時ころ、大きな工事現場があり、そこを見てから本日の探索は終了にしようと、自転車でその工事現場へ入って行き、トタン板の上を通り過ぎようとすると

 

ドンガラガッシャーン!

 

と言う音と共に、突然天地が逆転。

目の前には夜空が広がっている。

 

どうやら大きな穴にトタン板が被せてあったところを、私が自転車で通過しようとして自転車ごと仰向けに落とし穴に落ちた形となっていたのである。

 

逆さまになった自転車の車輪がカラカラと音を立てて回っている。

起き上がる気力もなく、半泣きで春の終わりの澄み切った夜空を見上げたら、

 

「このスティードってやつはね、タイヤが太いんだよぉ」  

 

のおじさんの声が聞こえた。

 

(その後、バイクは見つからず、悔しさのあまり、三年間のローンを一度の延滞もなく完済したのである)

【長い自己紹介の続き】続・此の馬の骨はかなりアホ也⑤

送別会&歓迎会

ピザ屋を辞めることにしたので、某製紙工場の求人に応募し、若いこともあって合格。

私以外の辞める人への送別会的な意味合いと、新体制でも残る人たちの決起集会的な意味合いの飲み会を行われることとなった。

場所は個室の居酒屋だがカラオケのある大パーティールーム。

これまでの思い出話で盛り上がる我々に引き換え、新体制の、痩せぎすの銀縁メガネの新店長は面白くなさそうである。

別に関係がないので、新店長以外の我々はバカ話で盛り上がったり、カラオケで大合唱をしておった。

面接のとき

「俺は右腕が欲しい!」

などとのたまった元気はどこへ行ったか、新店長はムッツリとし、一人で酒をグビグビあおっておる。

当時、私がカラオケで得意としていたのがダウンタウンブギウギバンドの『港のヨーコヨコハマヨコスカ』。

これのギターのリフのトークの部分を即興で、その日にあった出来事とか、これまでの笑える思い出話なんかを語り

「あんた、あの子のなんなのさ」

のキメの部分でオチを付けてフルコーラス歌いきるという、やってみればわかるが、頭が固くなっている今となっては絶対に出来ない芸当をしていたのである。

で、リクエストされた、その日もそれを披露して大成功したのだが、やっぱり新店長は一人だまってムッツリとしている。

新店長は様子がおかしい

トイレに行くと、参加者の何人かがトイレの前でたむろしており、

「店長おかしくない?」

「機嫌が悪いの?」

なんて言っている。

席に戻って、ご機嫌取りの意味を込めて、ビールの入ったピッチャーで新店長にお酌すると、快く杯を受けてくれるのだが、やっぱりムッツリしている。

酒癖が悪いのか、単に気分が悪いのか、よくわからんので

「なんか歌いますか?」

と言って歌本を渡すと、新店長は

〝迷わず〟

と言った感じでササッと曲を選んでリモコンで数字を打ち込んで送信した。

衝撃の『抱いてくれたらいいのに』

しばらくすると、新店長が送信した曲が流れ、ムックリと立ち上がってステージに登った。

曲は工藤静香の『抱いてくれたらいいのに』である。

『抱いてくれたらいいのに』のイントロが始まる。

〝ドンッタッタ、タタンタタンタンタン、タントーンッ!〟

とドラムのタム回しがあり

〝ギュィィィィィン〟

〝ギュィィィィィン〟

という、これでもかというくらいの泣きのギターとともに、女性コーラスが

「フォロミー、ステイウィズミー、フォリンラーブ♪」

などと歌い、楽器が一斉にタンッと止まり、静寂の中、いよいよ新店長が

「抱いてくれたら~」

「いいのに~」

と歌いだすと同時に、新店長のスボンから大量の小便が放出。

ズボン越しにバシャバシャーと大放尿!

ウオーーーーーーーーーーッ!!!

と、個室内大絶叫!

ギャーーーーーーーーーーッ!!!

と場内大悲鳴!

「抱いてくれたらいいのにじゃねえから!」

「誰も抱かねえから!!」

女性陣は一目散に退室。

男性陣は、新店長に部屋中のおしぼりや割りばしを一斉に投げつけ

「バカヤロー!」

「何考えてんだこの野郎!」

と大騒ぎ中の大騒ぎとなり、新店長はこの事件がもとで新オーナーよりクビを言い渡され、別の人物が店長になったのである。

某製紙工場で働き始めた

一方私は、ピザ屋をやめ、近所の某製紙工場で勤務し始めた。
高校卒業から半年後のことである。

この工場は、大企業だけあって福利厚生なども万全だし、給料が高い上、ボーナスもガッツリ出たし、三交代は想像以上に厳しかったし、男しかいなかったが、職場の男どもは60歳から18歳の最年少の私まで幅広い年齢層であり、憎たらしいオヤジもいたが、基本的には、酒のことを〝ガソリン〟、生野菜のことを〝草〟という荒くれものの海賊野郎どもといった風情で、清々しく、私にも仲良く親切にしてくれたこともあり、ピザ屋とはまた違った楽しさがあったのである。

などと言うと、

「本当はピザ屋に未練があったくせに」

などと言われそうだがそんなことはない。

実を言うと、好きな人とはピザ屋をやめても付き合っていたので

「もう、こっちはピザ屋に未練はないもんねー」

と思っていたからだ。

【長い自己紹介の続き】続・此の馬の骨はかなりアホ也④

宅配ピザ屋のバイト

そのように数日間、アルバイトニュースを見ては応募して断られたり、受かってもアッサリ辞めたりを繰り返していたが、ある日、公園でアルバイトニュースを見ていると、ピザ屋のデリバリーのバイクが目に入った。

「ああいうの、気分良さそうでいいよなあ」

郵便配達の仕事に憧れていたこともあり、バイクで走り回る仕事に惹かれ

「ああ!ピザ屋のバイトだ!」

「ピザ屋しかねえ!!」

「且つ、ピザ屋には女も大いに違いない!」

と思い、近所のピザ屋に電話しアルバイト募集の有無を確認したところ、その店では募集していないが、隣町の店では募集しているとのことでさっそく面接を受け、働かせてもらえることになった。

で、このピザ屋の仕事が楽しい楽しい。

ピザ屋の仕事は学生が多く、私の様にフルタイムで働くことのできる人間を重宝してくれたし、試食はたくさんさせてくれるし、同年代の女性もわんさか働いているし、何の保証もボーナスも無いが、手取りは20万円を超えるし

「ああ、俺の求めていた青春ってこういう感じなんじゃないかなああ」

と幸せな気分に浸っておった。

で、あまりに楽しいので、のちに一緒に上京することになる、NとHにも声をかけ、みんな一緒に働くようになった。

そのピザ屋では好きな人も出来たし、いい仲間に出会えたし、毎日楽しいし、何の問題もないわあ、というハッピーな日々を過ごして居ったが、どうにもこうにも金が貯まらん。

上京する資金を貯めるために働いているのに、毎晩毎晩仲間や好きな人と遊んでおれば、金が貯まるはずもない。

芸人になるために高校の頃はきちんとネタを書いたり練習したりしていたが、ピザ屋に入ってからはただ遊んでばかり。

「もっと厳しい状況に身を置いて、きちんと稼げる仕事につかねばならんのではないか」

「でも、楽しいし、辞められねえわ」

「どうしよう」

と思っていたところ、急遽、ピザ屋のオーナーが店を売り、別の会社が営業することになった。

ピザ屋の体制交代

旧オーナーの女性から

「みんなはそのまま同じ条件で働いてていいから」

と言われ、我々従業員は新体制でも働くことになった。

私はオーナーの人柄も含めてこの店が好きであったので、新体制に変わるのを機にバイトを辞めようと考えていた。

というのも、仲間のSが私たちの住む街にある、某大手製紙工場で、三交代でバリバリ働いて稼ぎまくって、ボーナスもわんさかでて、貯金しまくっており、そこも人手不足で随時社員を募集しており、仕事内容はとてもキツイが、そこで働いて、金を稼ごうと思っていたからである。

「でも三交代の工場はキツイよなあ」

「オーナーは変わるけど、ピザ屋は楽しいしなあ」

と思っていた。

で、いよいよピザ屋の旧体制が終わり、新体制になるにあたって、従業員はそのまま引き継ぎとなるが、

「一応履歴書もって面接に来い」

とのことで、改めて履歴書持参で面接に行った。

新しい店長と名乗る30歳ぐらい痩せぎすの銀縁メガネの男が私の履歴書に目を通し

「フルで働いているんだね?」

と言うので

「そうです」

と答えると持っていたボールペンで、履歴書に大きく

〝即戦力〟

と殴り書き

「俺は、右腕が欲しい!」

と言ったのをきっかけに

「あの、辞めます」

と言ってピザ屋を辞めることにしたのであった。

(つづく)

【長い自己紹介の続き】続・此の馬の骨はかなりアホ也③

ビデオレンタル屋の面接

女子高の用務員の夢破れ、どうしたもんかと思いアルバイトニュースの雑誌を買いペラペラとめくっておったが、その中に近所のレンタルビデオ店の名があった。

そこは、高校時代に友達同士で

「あそこのビデオ屋の店員さん可愛いよなあ」

と話題になっていた店であり、

「女性だらけでなくとも、あの可愛い店員さんと働けるなら問題ないぜー」

と、思い出しながら書いているだけで自らのバカさ加減に呆れてくるが、さっそく応募し、即日面接を受けることになり、履歴書持参で件のビデオレンタル屋に行った。

レンタル屋について、レジの前にいる男性店員に、バイト募集に応募した者である旨を伝えると、店長と名乗る男がやってきた。

店長はレジ越しに、私の履歴書を受けとると、履歴書を一瞥し、私に向かって

「はい、自己PRをどうぞ」

と言ったのである。

まさかビデオ屋のバイトの面接で自己PRを聞かれるとも思って居らぬ上、

『レジの前で自己PRもなにもないもんだよなあ』

と思い

「あ、そういうの無いんでもういいっす」

と履歴書をふんだくる様にしてビデオ屋を後にした。

良くも悪くも、私は根性が反抗的に出来ているのである。

英会話教室のポスター貼りのバイト

「じゃあ、次はどうするかなあ」

と考えていたところへ、某英会話教室のポスター貼りが募集されていたのでさっそく応募。

面接官は割と美人な人であった。

面接官にビデオ屋の店長からふんだくった履歴書を渡し、即日働かせてもらうことになったのだが、なんと時給は無しだという。

「じゃあどうやってお金を?」

と尋ねると

「ポスターを店舗や住宅に貼らせてもらうと一枚数百円お支払いします」

「まあ、完全出来高制ですね」

と言う。

「じゃあ、一日で数枚をチャッチャッと貼らせてもらえば、短時間で高収入になるわけですねー」

「なんか男の仕事っぽくていいですねえ」

と、とてもさっきまで女子高の用務員になろうとしていた男の発言とは思えぬことを言い、さっそくポスターの束を持って街中を散策。

既にポスターが貼られている店に行き、無下に断られたり、頭を下げた押して数件貼らせてもらえ気を良くしたのもつかの間、

「こんなもんで一か月稼ぎ続ける自信はない!」

と思い、事務所に帰るなり

「あの、今日でやめさせてください」

とアッサリ退職したのである。

(つづく)

【長い自己紹介の続き】続・此の馬の骨はかなりアホ也②

女だらけの職場で働きたい!

会社を辞めたはいいが、今時の引きこもりとか、ニートなどと呼ばれる者のような生活を許してくれるほど、うちの母親は甘くなく、

「お前をここまで育てたのは」

「稼いで金を家に入れるためだけだ」

とでも言うように、就職後からは手取り12万のうち、家に金を7万入れろという鬼のようなルールを敷き、あまりにも厳しすぎる旨を訴えるも

「嫌なら出ていけ」

の一点張りで聞く耳を一切持たないのである。

出ていく金があるならば、とっくに上京しているのである。

なので、早く仕事を見つけねばと焦っていたのだ。

そもそも上京する資金を稼ぐための仕事であり、正社員というものは、退職するのに嫌に気を遣うことが分かり、カラオケ店を辞めたKの話からも、

「バイトというのは簡単に辞められるもんなんだな」

とある意味誤解しながらも思い、また手取り12万は、各種の保証があり、ボーナスもあるとは言え、単純に時給に直してみると当時の最低賃金をも大幅に下回る、420円程度でもあったので、

「バイトでいいから稼げる仕事を探そう」

と思い

「どうせなら、女だらけの仕事がいい」

と思った次第である。

「女だらけの職場ってどんな職場があるか?」

と考えてみて、

「女子高なら女だらけだぞ!」

「女子高で働こう!」

と、バカ丸出しのようなことを真剣に考えつくも、教員免許などは勿論持っておらんので、どうするべきか考えておったが

「用務員なら雇ってもらえるぞ!」

「わだば、女子高の用務員さんになる!」

と、18歳のいい若いもんがなあにを抜かすかということを考え

「どうせ女子高ならお嬢様高校がいい!」

と、名古屋で有名な超名門女子高の用務員になることを決意したのである。

決意したはいいが、どうすれば女子高の用務員になれるのかサッパリわからん。

ネットもない時代であり、今時のように

「用務員 なり方」

などで検索することも出来ない。

もちろん、用務員に知り合いもいないので、どうしようか思っていたが

「迷った時は正面突破だ!」

と、思い切ってその高校に電話をかけたのである。

女子高に電話をかける!

震えるように実家の電話のボタンを押し、呼び出し音が鳴る。

数コール待つと、男性が

「はい、〇〇学院です」

と電話に出た。

「あ、あの~」

と恐る恐る言い

「そちらで用務員を募集していませんか?」

と聞くと

「ええ、今募集中ですよ!」

などと言うはずもなく

「してません」

とぶっきら棒に言われた。

イタズラ電話と思われているかもしれない、イタズラなどではなく、俺の気持ちは真剣なんだ、真剣なことを分かってほしいと思い

「では、募集の予定はありませんか?」

と尋ねるも

「ありません」

とニベもない。

ここで引き下がっては話にならん、と

「では用務員になるにはどうしたらいいですか?」

と食い下がるも

「知りません」

と吐き捨てられて撃沈し

「どうもすみませんでした」

と言って電話を切ったのである。

相手の私への応答が

「してません」

「ありません」

「知りません」

と、わずかに15文字であったことに、我ながら驚いたものである。

(つづく)

【長い自己紹介の続き】続・此の馬の骨はかなりアホ也①

退職はしたけれど

高校卒業後、わずか一か月で就職した電気量販店を逃げるように辞めた私は(というか実際に逃げたのだが)、実家住まいとは言え、一刻も早く上京する資金を蓄えねばと職探しに焦っていた。

焦ってはいたが性根があまちゃんの私は

「どうせなら女だらけの職場がいい」

と考えていた。

というのも、私は中学を卒業し、入学したのが女性が学年に4人程度いるだけのくせに、男女共学などと謳っている、実際はムサい男どもの掃き溜めのような工業高校であり、

「懲役三年!」

「執行猶予無し!」

などと思い、我慢に我慢を重ね、三年間をどーにかこーにかやり過ごし、念願が叶い忌々しいその工業高校を卒業を迎え

「家電量販店なら女性がわんさかいるはずだ」

「女性と共に働き、上京の資金を稼ぐ」

と思って選んだ就職先だったが、入社後数日間行われる研修の座学時は、入社した30名のうち半数が女性であり、中学以来の異性との交流に鼻の穴は北島のサブちゃん状態になっていたが、配属された店舗は、何の因果か、これまた男だらけの店舗であり、給料は安いわ、店長は墨汁の臭いがするわ、無いと聞かされていたノルマ達成のために

「親戚にシャワートイレ売ってこい」

と言われたことをきっかけとして、店舗配属の数週間後に行われた、奈良県の研修センターでの研修中に逃げ出したのである。

ギターのKの場合

当時、親のスネを齧って一人で上京し、音楽の専門学校に入学した元バンドメンバーのKは、カラオケ店でバイトをしていた際、お客の中年カップルが頬を寄せあった上、抱き合うように往年のヒット曲、『キッスは目にして』を熱唱しているのを横目に空いたグラスなぞを片づけておったそうだが、その際

「キッスは目にッ♪キッスは目にして~」

と、

「キッスは目にッ♪」

と決めた後、一旦ブレイクを挟み、改めて

「キッスは目にして~♪」

と歌ったことに我慢がならず、一緒にグラスを片付けていた店長に、その場で

「辞めます」

と言って片づけをほっぽり出し、♪デュワッデュワッ♪などというコーラスが流れる中、バイトを辞めたそうである。

(つづく)